赤信号がなかなか変わらない。前の車が遅い。横から強引に割り込まれる。
運転していて「イラッ」とした経験は、ほとんどの人にあるはずです。でも、何に・どれくらい腹が立つかは、人によってかなり違います。
実は心理学は、この「運転中の怒り」を数値で測れる尺度にして、30 年以上研究してきました。世界中で広く使われている代表的な尺度が Driving Anger Scale(運転怒り尺度・DAS)。この記事では、DAS が分類した「ドライバーが怒る 6 つの場面」を、研究ベースで整理します。
自分がどこでキレやすいかを知ることは、あおり運転を「する側」にも「される側」にもならないための、地味だけれど確実な第一歩です。
「運転中の怒り」を測る代表的な尺度・DAS とは

DAS は、心理学者 Deffenbacher らが 1994 年に開発した、運転中の怒りを測定する尺度です(原典:Deffenbacher et al., 1994)。
開発はかなり大掛かりでした。
- 1,500 人以上の回答を分析
- 怒りを生みそうな 53 の運転場面を集めて統計的に分類
- 最終的に 33 項目・6 つのカテゴリに整理(信頼性 α=.90 と非常に高い)
ポイントは、「運転中の怒り」がひとかたまりではなく、6 つの異なる種類に分けられたこと。そして 6 つはすべて互いに関連していて、「運転で怒りやすい人は、どの場面でも怒りやすい」という全体的な傾向も同時に存在します。
この DAS は世界各国で翻訳・検証されており、日本でも翻訳・検証されて研究に使われています(日本語版DAS)。運転中の怒りは、文化を超えて研究対象になっているテーマなのです。
運転中に怒る 6 つの場面

実は、人がイラッとする場面には、意外と偏りがあります。DAS が整理した 6 カテゴリを、まず一覧で見てみましょう。
| 場面 | ありがちな例 | DAS の項目数 |
|---|---|---|
| ① 敵対的なジェスチャー | 中指・怒鳴り・睨み | 3 |
| ② 違法・危険な運転 | 信号無視・スピード違反 | 4 |
| ③ 警察の存在 | 取り締まり・覆面 | 4 |
| ④ ノロノロ運転 | 青信号で進まない・追越車線が遅い | 5 |
| ⑤ 無礼・無作法な運転 | 割り込み・車間詰め・順番無視 | 9(最多) |
| ⑥ 交通の妨害 | 渋滞・工事・通行止め | 7 |
それぞれ、日本の道路でありがちな例とあわせて見ていきます。
① 敵対的なジェスチャー(3 項目)
他のドライバーから中指を立てられる・怒鳴られる・睨まれるといった、直接的な敵意を向けられる場面。項目数は少ないものの信頼性が最も高く(α=.87)、「やられたら強く怒る」わかりやすい引き金です。
② 違法・危険な運転(4 項目)
信号無視・一時停止無視・スピード違反など、ルールを破る運転を見たときの怒り。「自分はちゃんと守っているのに」という公平さの感覚が刺激される場面です。
③ 警察の存在(4 項目)
取り締まり・覆面パトカー・切符を切られる、といった場面。他者への敵意とは少し毛色の違ういら立ちも、同じ尺度に含まれています。
④ ノロノロ運転(5 項目)
青信号に変わってもなかなか進まない・追越車線をゆっくり走られるなど、自分のペースを乱される場面。「急いでいるのに」という焦りと結びつきやすいのが特徴です。
⑤ 無礼・無作法な運転(9 項目)★最も項目が多い
割り込み・幅寄せ・車間を詰められる・順番を無視される・待っていた駐車スペースを横取りされる。 他のドライバーの「身勝手」「失礼」に対する怒りです。
注目すべきは、6 カテゴリの中でこの「無礼」が 9 項目と最も多いこと。DAS では「無礼」に関する場面が最も多く尺度に取り上げられていました。(※項目が多いのは怒りの“きっかけ”が多彩という意味で、「無礼が必ず最も強い怒りを生む」と断定するものではありません)そして後で見るように、これは日本で問題になっている「あおり運転」と、ほぼ重なります。
⑥ 交通の妨害(7 項目)
渋滞・工事・通行止めなど、自分の進行を物理的に妨げられる場面。特定の相手がいるわけではないのに、状況そのものにいら立つタイプの怒りです。
あおり運転とつながるのは「無礼」カテゴリ

割り込まれた・車間を詰められた・順番を抜かされた——これらはすべて、DAS で最も項目が多かった「無礼」に含まれます。あおり運転は、このような怒りが行動へ移った一例として理解できます。
一方で、③の「警察の存在」のように、他者への敵意とは少し毛色の違ういら立ちも、同じ尺度に含まれます。ひとくちに「運転中のイライラ」と言っても、カテゴリによって性質が違うのです。
「怒る場面」を知ることに、どんな意味があるのか

大事なのは、怒りを感じること自体は異常ではないということ。問題になるのは、その怒りを行動に出したときです(関連研究では、怒りを「感じる」以上に「表に出す・運転で表現する」ことが事故や違反と強く結びつくと報告されています。→ イライラ運転は事故も違反も多い)。
- 自分はどのカテゴリで特に怒りやすいかを知る
- 「自分は割り込み(無礼)にめっぽう弱い」とわかれば、その場面であらかじめ身構えられる
- 漠然と「運転にイライラする」より、引き金を具体的に特定できれば、対処の精度が上がる
なお、ここで紹介した DAS は「怒りを感じる場面」を測る尺度であって、あおり運転そのものを診断するものではありません。あくまで「自分の怒りの傾向を知る地図」として使うのが適切です。
よくある質問
Q. 運転中に怒るだけでも問題ですか?
A. 怒りを感じること自体は自然な反応です。問題は、その怒りを運転行動に出すこと(割り込み返し・幅寄せ・車間詰めなど)。研究でも、事故や違反に結びつくのは「怒りの表現」のほうだと報告されています。
Q. 自分がどのカテゴリで怒りやすいか調べられますか?
A. 正式な DAS は研究用の尺度ですが、本記事の 6 カテゴリを参考に、自分がどの場面でイラッとしやすいかを自己観察することはできます。「自分は割り込み(無礼)に弱い」と分かるだけでも、対処の第一歩になります。
まとめ

- DAS(運転怒り尺度)は、運転中の怒りを 6 カテゴリ・33 項目に整理した、世界で広く使われる代表的な尺度(Deffenbacher 1994・日本語版あり)
- 6 場面:①敵対的ジェスチャー ②違法・危険運転 ③警察の存在 ④ノロノロ運転 ⑤無礼 ⑥交通の妨害
- 中でも ⑤「無礼」が最多の 9 項目で、あおり運転の引き金と重なる
- 怒りを感じること自体は普通。問題は怒りを行動に出すこと(→ 事故・違反に直結)
- DAS は「怒る場面」を測る地図であって、あおりを診断するものではない
- 自分の「怒りの引き金カテゴリ」を知ることが、暴発を防ぐ第一歩
運転中の怒りは、性格の問題というより「場面」と「反応のクセ」の問題です。まずは、自分がどの場面に弱いのかを知ることから始めてみてください。
あわせて読みたい(研究ベース)
- あおり運転をする人の心理|処分を受けた 118 人の研究でわかった「4 つの段階」(怒りが行動に至るまでの過程)
- あおり運転する人は自分も危ない|怒り運転と事故・違反の関係(怒り運転は事故も違反も多い)
