「どうして、あんなに怒れるんだろう?」
ニュースであおり運転の映像を見るたび、そう感じたことはありませんか。多くの人にとって、あおり運転をする人は”理解できない特別な存在”に見えます。
でも、2026年に発表されたある研究が、その「頭の中」を具体的に明らかにしました。あおり運転で実際に処分を受けた人118人の語りを分析したところ、攻撃的な行動に至るまでには、はっきりした4つの段階があったのです。
この記事では、その研究をもとに、あおり運転をする人の心の中で何が起きているのかを、むずかしい言葉を使わずに解説します。知っておくと、自分が加害者にならないためにも、被害に遭ったときに冷静でいるためにも役立ちます。
⏱ この記事の要点(30秒)
- あおり運転は”いきなり”ではなく、4つの段階を踏んで起きる
- 鍵は「火種」「怒りを手放さない」「相手のせいにする」「自分の攻撃に気づかない」の4つの心理
- これは”特別な人”だけの話ではない
この記事のもとになった研究

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | 運転者における攻撃行動の心理的プロセス(「あおり運転」処分者の発話の質的分析) |
| 掲載誌 | 心理学研究 96巻6号(2026年) |
| 対象 | あおり運転で警察聴取後に行政処分を受けた運転者 |
| 人数 | 118人 |
| 方法 | 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(質的研究) |
研究チームは、上の118人の語りを集め、ひとつずつ丁寧に分析しました(たくさんの語りを細かく分類し、共通する流れを取り出していく「質的研究」という方法です)。
ここが大事なポイントです。この研究は、「こういう人が危ないだろう」という想像ではなく、実際に加害をした本人たちの言葉を分析しています。だから、現実に起きたことに近い形で、心の動きを追えます。
なお、この記事では、研究で示された事実と、わかりやすく伝えるための筆者の整理(解釈)を分けて説明します。研究そのものの結論を超えないよう配慮しています。
あおり運転に至る”4つの段階”
研究では、攻撃的な運転に至るまでの流れが、次の4段階として整理されました。順番に見ていきます。

段階1:事案の前に、すでに”火種”がある
あおり運転は、その瞬間に突然始まるわけではありません。研究では、事案の前に「火種(プライマー)」となる状態が関係していたとされています。
たとえば、急いでいた、すでにイライラしていた、疲れていた——こうした状態は、一般的にも火種になりやすいと考えられます(※具体例は筆者による補足です)。つまり「何もないところから怒った」のではなく、もともと怒りやすい状態だったケースがある、ということです。
段階2:相手の行動に”反応”して火がつく
次に、前の車の割り込み、ノロノロ運転、クラクションなど、相手の行動がきっかけになります。火種があるところに、きっかけが来る。ここで怒りに火がつきます。
大事なのは、同じ場面でも、火種がない人は受け流せるということ。怒りの大きさは、相手の行動だけで決まるわけではないのです。
段階3:「やり返してやる」という”行動の意図”
怒りに火がつくと、「やり返してやろう」「思い知らせてやろう」という行動の意図が生まれます。ただ腹が立つだけで終わる人と、実際にあおってしまう人。その分かれ道がここです。
研究では、この流れに関係する心理として「怒りの維持」が挙げられています。普通なら時間とともに冷めていく怒りを、ずっと握りしめてしまう。それが行動へと押し進めると考えられます。
段階4:自分の行動を”正当な反撃”だと思い込む
最後の段階です。あおっている本人は、自分の攻撃性を十分に認識できていない場合があります。「相手が悪いんだから、当然のことをしている」と感じていることもあります。
研究では、こうした自分の行動の捉え方に関係する心理として、次の2つが挙げられています。
- 帰属バイアス:「悪いのは全部相手だ」と思い込みやすい心理(心理学では帰属バイアスと呼ばれます)
- 洞察の欠如:自分の行動が攻撃的だと、気づきにくいこと
そのため本人の中では、あおり運転が「悪いこと」と認識されにくくなります。これが、注意してもなかなかやめられない一因と考えられます。
この流れを動かす”4つの心理”
4つの段階を裏で動かしていたのは、研究が見つけた次の4つの心理でした。
| 心理 | かんたんに言うと |
|---|---|
| 火種 | 事案の前から、すでにイライラ・焦り・疲れがある |
| 怒りの維持 | わいた怒りを手放さず、握りしめ続ける |
| 帰属バイアス | 「悪いのは相手」と思い込む |
| 洞察の欠如 | 自分が攻撃していると気づかない |

これらの心理が重なったとき、攻撃的な運転が起きやすくなる——研究はそう示しています。誰でも運転中に怒りを感じることはあります。ただし、この研究はあくまで「あおり運転で処分を受けた運転者」を対象にしたものである点は、おさえておきましょう。
おまけの事実:怒りは、運転そのものを危なくする
ここまでは「なぜあおるのか」という心の話でした。でも、怒りの問題はそれだけではありません。

運転中の怒りを長年研究してきた海外の研究では、怒りは運転中の注意や判断に悪い影響を与える可能性が示されています。カッとなると、周りが見えにくくなったり、ブレーキやハンドルの操作が雑になったりしやすい、ということです。また、怒りやすい運転傾向が強い人では、違反や事故との関連が報告されています。
つまりあおり運転は、相手にとって危険なだけでなく、やっている本人の事故リスクまで上げているのです。「やり返す」つもりが、自分の身を危険にさらしている。ここまで含めて考えると、あおり運転はまったく割に合わない行動だと言えます。
この4段階を知ると、何が変わるか
① 自分が”加害者”にならないために
こわいのは、4段階のどれも自分では気づきにくいこと。だからこそ、知っておくだけで歯止めになります。
- 運転の前に「今、火種があるな」と気づく(段階1)
- わいた怒りを「手放す」と意識して決める(段階3)
- 「本当に、相手だけが悪いのか?」と一度立ち止まる(段階4)
② 被害に遭ったとき、冷静でいるために
あおってくる相手は、「自分は正しい」と思い込んでいます(段階4)。だから、こちらが反応して張り合っても、相手の中では「やっぱり相手が悪い」が強まるだけです。火に油を注ぐことになりかねません。
張り合わない・関わらない・距離を取る。これが、研究の中身から見ても理にかなった対応です。スピードを一定に保ち、サービスエリアなど安全な場所に避難し、必要なら通報しましょう。ドライブレコーダーがあると、いざというときの証拠になります。
③ 「自分とは違う特別な人」だと思わないこと
あおり運転をする人を「自分とは無関係な特別な人」と切り離してしまうと、かえって自分の中の火種が見えなくなります。
怒りそのものは、誰の中にも生まれます。「自分は絶対にやらない特別な人間だ」と切り離すよりも、「自分にも火種は生まれうる」と考えておくほうが、ずっと安全です。
この研究だけで、すべてがわかるわけではない
研究記事として、正直にお伝えしておきます。この研究にも、次のような範囲(限界)があります。
- 対象は118人で、すべてのあおり運転者を代表するわけではない
- 日本国内の調査である
- 行政処分を受けた人にしぼった分析である
つまり「あおり運転のすべて」を説明したものではありません。それでも、実際の加害者の言葉から共通の流れを取り出した意義は大きい、と言えます。
まとめ
あおり運転は、いきなり起きるのではありません。
①火種がある → ②相手の行動に反応する → ③やり返す意図が生まれる → ④”正当な反撃”だと思い込む
この4段階を踏んで起きる、と研究は明らかにしました。動かしているのは「火種」「怒りの維持」「帰属バイアス」「洞察の欠如」の4つの心理です。
この仕組みを知っておくことが、加害を防ぎ、被害から身を守る第一歩になります。
よくある質問
Q. あおり運転をする人には、共通の特徴がありますか?
A. この研究からは「特定の性格の人」というより、「火種・怒りを手放さない・相手のせいにする思い込み・自分の攻撃への自覚のなさ」という4つの心理がそろったときに起きやすい、と読み取れます。誰の中にも火種は生まれ得ます。
Q. あおってくる相手に、言い返しても大丈夫ですか?
A. おすすめしません。相手は「自分は正しい」と思い込んでいるため(段階4)、言い返すと相手の怒りをかえって強めてしまいます。関わらず、距離を取り、安全な場所に避難するのが基本です。
Q. 自分も、ついイラッとしてしまいます。あおり運転予備軍でしょうか?
A. イラッとすること自体は自然なことです。問題は、その怒りを手放さずに「やり返す行動」まで進めてしまうかどうか。怒りに気づいて手放す習慣があれば、段階3・4には進みません。
この記事の出典
- 小菅律・岡村和子・上野彩華・中野友香子・金内さよ・藤田悟郎(2026)「運転者における攻撃行動の心理的プロセス――『あおり運転』処分者の発話の質的分析――」『心理学研究』96巻6号.(J-STAGEで公開)
- Deffenbacher, J. L., Oetting, E. R., & Lynch, R. S. (1994). Development of a Driving Anger Scale. Psychological Reports, 74(1).(運転中の怒りの測定と、怒りが運転に与える影響に関する研究)
- 運転中の怒りやすさが違反・事故と関連することを示した研究(Propensity for Angry Driving Scale 関連)
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危険な運転を見かけた地域は、あおり運転データベース本体の地図ページでも確認できます。


