「日本はあおり運転が多い」「いや、海外のほうがずっと危ない」——どちらもよく聞きます。では実際のところ、日本人は世界的に見て“あおりやすい”のでしょうか?
この問いに、なんとなくのイメージで答えるのは簡単です。でも、まじめに考えると、すぐ壁にぶつかります。国によって「あおり運転」の測り方がバラバラだからです。
この記事では、研究者が各国で使ってきた“怒りのものさし”をもとに、「日本人は特別あおりやすいのか?」を、できるだけフェアに考えます。結論を先に言うと——答えはたぶん、あなたのイメージとは少し違います。
⏱ この記事の要点(30秒) – 国ごとに調査方法が違うため、「どの国が一番あおる」を単純に比べることはできない – 研究には各国で使われてきた共通の“ものさし”(運転怒り尺度・DAS)があるが、翻訳版では測り方のまとまりが変わることもある – 運転中の怒りはさまざまな国・地域で確認されている。ただし「日本人だけが特別あおりやすい/おとなしい」と順位づけられるデータはそろっていない – 国や地域で違うのは、怒りの強さや「何にイラつくか」——ただし国民性だけでは説明できない
そもそも「国別ランキング」は作れない
まず、身もふたもない話から。
「あおり運転が多い国ランキング」のようなものを、正確に作ることはほぼ不可能です。理由はシンプルで、国によって調べ方がまるで違うからです。
- ある国は「過去1年に怒りを感じたか」をアンケート(自己申告)で聞く
- ある国は「取り締まり件数」を数える
- ある国は「あおり運転」という言葉自体が存在しない
たとえば、アメリカの大規模調査では、ドライバーの96%が何らかの攻撃的運転を認めました。でも、別の国の調査で「路上で怒りを経験したことがあるか」を聞けば、また違う割合が出ます。
そもそも、片方は「自分がした攻撃的運転」を聞き、もう片方は「怒りを経験したか」を聞いている——質問が違えば、出てくる割合も大きく変わります。だから数字を並べて「A国はB国の倍あおる」とは言えません。数字の大きさは、“測り方の違い”を映しているだけかもしれないのです。

各国で使われてきた“共通のものさし”=運転怒り尺度(DAS)
そこで研究者は、DASという共通の尺度を各国語に翻訳・調整して使ってきました。代表的なのが、1994年にアメリカの心理学者ディッフェンバッカーらが作った「運転怒り尺度(DAS)」です。
これは、「割り込まれたとき」「ノロノロ運転の後ろについたとき」など、運転中によくある場面でどれくらいイラっとするかを点数で測るものさしです。ここで大事なのは、DASが測るのは「あおり運転をした回数」ではなく、運転中にどれくらい“怒りを感じるか”だということ。怒りを感じることと、危険な行動に移すことは、同じではありません。
このDASは、日本・中国・欧州・オセアニアなど、さまざまな国や地域で翻訳・検証されてきました。運転中の怒りを国を越えて研究するときに、広く使われてきた代表的な尺度です。ただし、翻訳版では中国で3つのまとまり、日本でも日本向けの構造が報告されるなど、まったく同じ条件で比べられるわけではありません。点数をそのまま国別ランキングにはできない、ということです。

研究から見えること①:運転中の怒りは日本だけの現象ではない
これだけ多くの国で研究して見えてきたのは、拍子抜けするくらいシンプルなことです。
運転中の怒りは、特定の一国だけに見られる現象ではない。
DASを使った研究は、日本を含むさまざまな国・地域で行われてきました。割り込まれればイラっとする。危ない目に遭えばカッとなる。ノロノロ運転にため息をつく。——運転中に怒りを感じること自体は、どこか一国に特有のもの、というわけではなさそうです。
つまり、「日本人だから短気」「あの国の人は乱暴」といった話は、運転中の怒りに関しては、そう単純ではありません。
研究から見えること②:日本の“世界順位”は決められない
では、「日本人は世界的に見て特別あおりやすいのか?」
この問いには、「はい」とも「いいえ」とも順位づけられるほど、比較できて一貫したデータが、いまのところそろっていません。日本人が世界で最も怒りやすい、という確かな証拠も、最もおとなしい、という確かな証拠も、見当たらないのです。
ここからは、上記の研究状況をふまえた筆者の整理です。
「日本は特別ひどい」も「海外に比べれば平和」も、どちらも印象論に寄りがちです。ニュースやSNSで強烈な事例を見ると、その国全体がそう見えてしまう。でも、いまある研究を見るかぎり、日本人が世界の中で極端な位置にいると順位づけられるだけのデータは、そろっていません。
研究から見えること③:怒りの強さと引き金には文化差がある
では、国による違いはまったくないのか——というと、そうでもありません。国や地域によって、怒りの強さにも、怒りやすい場面にも、違いが報告されています。
DASは、イラつく場面をいくつかのタイプに分けています。たとえば——
- 割り込み・幅寄せなど「無礼な運転」
- ノロノロ運転など「進行のさまたげ」
- 乱暴な運転・違法な運転
研究では、「どの場面で一番イラつくか」の順番や強さが、国や地域によって変わることが示されています。ある国では「ノロノロ運転」が最大の火種でも、別の国では「割り込み」がより強い引き金になる、というように。
ただし、この違いを国民性だけで説明することはできません。道路の混雑、交通ルール、運転マナー、調査した相手、質問の翻訳——こうしたいろいろな要因が混ざった結果だからです。

日本の“今”はどうなっているか
数字の話として、日本の状況も押さえておきましょう。
日本では、2020年に「妨害運転罪(いわゆるあおり運転罪)」が新しく作られました。警察庁は毎年、交通に関する統計を公表しており、施行後は全国で検挙が行われています。
ただし、ここも読み方に注意です。検挙件数は、実際の発生件数だけで決まるわけではありません。法律や制度、取り締まりの強さ、通報のしやすさ、ドライブレコーダーのように証拠が残りやすくなったこと——こうした条件にも大きく左右されます。だから、検挙件数だけを見て「あおり運転が増えた/減った」と判断することはできません。数字の裏側まで見ないと、実態は見誤ります。
結局、私たちはどう受け止めればいいのか
ここまでをまとめると、こう言えます。
- 「日本は世界一あおり運転が多い」——言い切れる根拠はない
- 「海外に比べれば日本は平和」——これも言い切れない
- 本当のところは、運転中の怒りはさまざまな国・地域で見られる現象であり、日本人だけが特別、とは言いにくい
だとすれば、「日本特有の問題だ」と嘆くのも、「海外はもっとひどい」と安心するのも、どちらも少しズレています。あおり運転は、“人間が運転するかぎり、どこでも起こりうる現象”。だから対策も、国のせいにするのではなく、一人ひとりが自分の運転でできることに向けるのが現実的です。

その具体策は、怒りを鎮めるコーピングの記事や、攻撃的運転は“伝染”するという話で紹介しています。
この話にも限界がある
研究記事として、正直にお伝えします。
- 各国の調査方法・年・対象がバラバラで、厳密な国際比較はそもそも困難です。ここで紹介した数字も、単純に並べて優劣を語れるものではありません。
- DASのような尺度は便利ですが、「イラっとする度合い」を自己申告で測るもので、実際の運転行動そのものではありません。
- 文化差の研究はまだ発展途上で、確定した結論とは言えない部分も多くあります。
それでも、「日本人だから」という思い込みを一度外して、人間共通の現象として冷静に見ることには意味があります。
まとめ
- 国ごとに測り方が違うため、「あおり運転が多い国ランキング」は正確には作れない
- 運転怒り尺度(DAS)は、日本を含むさまざまな国・地域で使われてきた(ただし翻訳版で測り方が変わることもある)
- 運転中の怒りはさまざまな国・地域で確認されている。「日本人が特別あおりやすい」と順位づけられるデータはそろっていない
- 国による違いは、怒りの強さにも引き金にもあるが、国民性だけでは説明できない
- 日本の検挙件数だけからは、あおり運転が「増えた」とも「減った」とも判断できない
「日本人はあおりやすい」というイメージは、思ったより根拠が薄いのかもしれません。大事なのは、どこの国の話でもなく、次に自分がハンドルを握るときの一手です。
よくある質問
Q. 結局、日本と海外ではどちらがあおり運転が多いんですか?
A. 正確には比べられない、というのが誠実な答えです。国によって調査方法も「あおり運転」の定義も違うため、数字を並べて優劣を決めることはできません。分かっているのは、運転中の怒り自体はどの国にも共通してある、ということです。
Q. 「日本人は民族的に短気」というのは本当ですか?
A. 運転中の怒りに関しては、それを裏づける強い証拠はありません。日本人を他国より明確に怒りやすいと結論づけられる、比較できて一貫したデータは、十分にはそろっていないのが現状です。
Q. 日本であおり運転の検挙が増えているのは、悪化しているからですか?
A. 必ずしもそうとは限りません。検挙件数は、実際の発生件数だけでなく、法制度・取り締まり・通報のしやすさ・ドライブレコーダーなど証拠の残りやすさにも左右されます。件数だけを見て「悪化した」と判断することはできません。
この記事の出典
- Deffenbacher, J. L., et al. (1994). Development of a Driving Anger Scale. *Psychological Reports*.(運転怒り尺度DASの原典)
- Driving anger as a psychological construct: Twenty years of research using the Driving Anger Scale(DAS研究の20年レビュー)
- AAA Foundation for Traffic Safety. *Aggressive Driving and Road Rage* (2025).
- 警察庁 交通統計(妨害運転罪の検挙状況)
- 各国の運転怒り・路上の怒りに関する調査(英国等の自己申告調査を含む)
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危険な運転を見かけた地域は、あおり運転データベース本体の地図ページでも確認できます。
