夜に運転していると、ふと「このままずっとハイビームで走っていて大丈夫なんだろうか?」と不安になることはありませんか。教習所では「ハイビームが基本」と言われた気もするし、でも対向車にパッシングされたりすると「やっぱり眩しいのかな…」と悩んでしまいますよね。
結論から言うと、「周りに車や歩行者がいない状況でのハイビーム走行」自体は違法ではありません。しかし、他車がいるのに減光しない「常時ハイビーム」は、道路交通法52条2項違反として、施行令32条が定める「減光等義務違反」に当たる可能性があります。
この記事では、一般ドライバーの視点から、道路運送車両の保安基準32条(前照灯等)と道路交通法52条、さらに道路交通法施行令32条で定められた違反区分まで踏み込み、「どこからがアウトなのか?」をわかりやすく整理していきます。

目次
1.ハイビームとロービームの法律上の位置づけ
1-1.保安基準32条は「クルマ側のルール」
まず押さえておきたいのが、「道路運送車両の保安基準32条」です。ここでは、自動車に備える前照灯の種類や性能が定められています。ざっくり言うと、
- 走行用前照灯(いわゆるハイビーム)を備える義務
- 夜間に前方の障害物を確認できるだけの明るさ(通常100m先程度)
- すれ違い用前照灯(ロービーム)の装備義務
といった内容で、「クルマがどんなライトを持っていなきゃいけないか」という車両側の基準を定める条文です。ここでは「常時ハイビームが違反」といった運転操作までは出てきません。
1-2.運転者の義務は道路交通法52条&施行令
一方、ライトの「点け方・減光のタイミング」など、運転者の義務を決めているのが道路交通法52条と、その委任を受けた道路交通法施行令です。
- 52条1項:夜間は前照灯や尾灯などを点灯しなければならない(無灯火の禁止)
- 52条2項:夜間、他車と行き違う・前走車の直後を走るとき、他車の交通を妨げるおそれがある場合は、灯火の光度を減ずる等の操作をしなければならない(減光義務)
さらに、道路交通法施行令32条などでは、「減光等義務違反とは、法52条2項に違反する行為をいう」といった形で違反類型が定義され、別表で点数区分が決められています。ここでようやく、
- 「減光等義務違反」=52条2項に違反した行為
- 一般的に違反点数1点+反則金(普通車で6,000円)
という「処分の枠組み」が整うイメージです。

2.「常時ハイビーム」は違反になるのか?結論整理
本題です。「常時ハイビーム走行」は違反かどうか。
2-1.法律だけを素で読むと
条文をそのまま読むと、「ハイビームのまま走ること自体」を直接禁止する文言はありません。どこにも「夜間は必ずロービームで走行せよ」とは書かれていないんですね。
むしろ警察やJAFの解説では、
- 対向車や前走車がいない区間ではハイビームが基本
- 他車がいるときにはロービーム(すれ違い用前照灯)へ減光
という運用が推奨されています。つまり、「暗い道で周りに誰もいないのにハイビームにしない」のも、実務上は危険なんです。
2-2.違反になるパターンは「減光しなかったとき」
ではどこで「違反」になるのかというと、ポイントは次の1行です。
夜間、他車と行き違う・他車の直後を進行するなどして、他車の交通を妨げるおそれがあるのに、減光操作をしない → 減光等義務違反
つまり、
- 対向車がいるのに、ずっとハイビームのまま
- 前走車のすぐ後ろにいるのに、ミラーが真っ白になるくらいハイビーム
- 横断歩行者に対して明らかに眩しすぎる状況なのに、そのまま
こうした場面で「常時ハイビームを続ける」ことが違反となるのであって、「暗い田舎道で誰もいないのにずっとハイビーム」は違反とは評価されにくい、という整理になります。
2-3.点数・反則金のイメージ
減光等義務違反は、一般的に次のように扱われます。
- 違反点数:1点
- 反則金:普通車6,000円、二輪車6,000円、原付5,000円など
パッと見ると軽い違反に思えるかもしれませんが、「ライトの扱いが悪くて人を眩惑させた結果の事故」は、過失の中身としてはかなり重めに評価されることもあります。

3.減光義務が発生する具体的なシチュエーション
実際の運転シーンで、「ここは減光すべき」「ここはハイビームをキープした方が安全」といった境目を、ケース別に整理してみます。
3-1.典型例:対向車が来たとき
一番わかりやすいのが、対向車が見えたとき。
- 対向車のライトが見えた時点でロービームに切り替える
- カーブの先にヘッドライトの光だけ見える段階でも、先に減光しておく
- 相手がハイビームを落としてくれたら、自分もそのままロービームでやり過ごす
この一連の流れを習慣にしておくと、「気づいたらずっとハイビームだった」という減光忘れをかなり防げます。
3-2.前走車の直後を走るとき
意外と忘れがちなのが前走車の後ろに付いたとき。ハイビームのままだと、相手のルームミラーやドアミラーに自分のライトがモロに映り込み、かなり眩しくなります。
この場合も道路交通法52条2項の「他の車両等の交通を妨げるおそれがあるとき」に該当し得るため、車間距離を詰める前にロービームへという癖付けが大事です。
3-3.街灯の多い市街地・住宅街
歩行者・自転車・対向車・横から出てくる車…とにかく「他人だらけ」の市街地。ここで常時ハイビームだと、誰かしらを眩惑してしまう確率が一気に上がります。
そのため、実務上は
- 市街地・住宅街・幹線道路のバイパス部など:基本ロービーム
- 街灯が減って真っ暗になった郊外区間:状況に応じてハイビームへ
という使い分けをしているドライバーが多いです。オートライト車の場合でも、「ハイ/ロー切替」は自分でやる必要があることが多いので注意です。
3-4.逆に「ハイビームにした方が安全」な場面
一方で、次のような場面では、むしろハイビームをしっかり使わないと危ないケースも多いです。
- 山道・農道など、街灯がなく真っ暗な道
- 見通しの悪いカーブが続く峠道
- 歩行者や動物が飛び出してきそうな田舎の生活道路
ハイビームは約100m先まで照らせると言われます。ロービームのままだと40m程度しか見えないとも言われており、時速60km前後で走っていると「見つけたときには、もう止まれない」距離になりがちです。

4.ハイビームをめぐるよくある誤解
4-1.誤解①「ハイビームはマナー違反だから基本ロービーム」
ネット上では「ハイビーム=マナー違反だからロービームが基本」といった声を目にすることもありますが、これは半分だけ合っていて半分間違いです。
法律の立て付けとしては、
- 前をよく照らせるハイビームが本来の「走行用」
- 他車に眩しさを与えるおそれがある場面だけロービームに切り替える
という考え方になっています。なので、「常にロービーム」が正解ではなく、「状況に応じて切り替える」が正解です。
4-2.誤解②「常時ハイビームは全部違反」
逆に、最近は「常時ハイビーム推奨」という記事や講習が増えた結果、「いやいや常時ハイビームは全部違反でしょ」という反発も見かけます。
しかし、条文上は
- 他車も歩行者もいない暗い区間をハイビームで走行
- 見通しの悪い山道を、対向車確認のためハイビーム多用
といった走行自体が直ちに違反とまでは書かれていません。あくまで問題になるのは、
「他車の交通を妨げるおそれがあるのに減光していない」状況です。
4-3.誤解③「オートライトだから全部クルマ任せでOK」
最近の車はオートライト機能が当たり前になってきましたが、多くの車種では、
- ライトのON/OFF:自動
- ハイビーム/ロービームの切り替え:手動(または限定的な自動)
という仕様になっています。つまり、減光義務そのものは運転者の責任であり、「オートだから知らなかった」では済まない可能性があります。

5.実際の事故事例とリスクイメージ
ライトの使い方を甘く見ていると、実際の事故につながることがあります。典型的には、次のようなパターンです。
5-1.ロービーム固定で歩行者を見落としたケース
郊外の片側1車線道路を、ドライバーAさんがロービームのまま時速60kmほどで走行していました。街灯は少なく、右側歩道から黒っぽい服を着た歩行者が横断を開始。
Aさんがその歩行者に気づいたのは40mほど手前。ブレーキを踏んだものの停止距離が足りず、衝突してしまった――というような事故例が、警察の広報資料などでも紹介されています。
「眩しいからロービームで十分」と思っていた結果、実は「見えているつもりだった」だけだった…というパターンです。
5-2.ハイビームのまま対向ドライバーを眩惑したケース
逆に、対向車への配慮が足りないパターンもあります。夜間、相互に時速50km前後で走行していた車同士が、片側1車線で正面衝突した事故。
後の調べで、一方の車がハイビームのまま減光せずに走行しており、相手ドライバーは「眩しくて一瞬進路を見失った」と供述していたケースが報告されています。
減光等義務違反としては1点の違反でも、事故になればそれだけでは済まないというのが怖いところです。
6.安全にライトを使うためのチェックリスト
最後に、実際の運転で意識しておきたいポイントをチェックリスト形式でまとめます。
- 暗い道で対向車・前走車がいなければ、基本はハイビームで視界を確保する
- 対向車のライトが見えたら、早めにロービームへ減光する
- 前走車の後ろに付いたら、ミラーを眩惑させないようロービームにする
- 市街地・住宅街など人や車が多い場所ではロービームを基本にする
- オートライトでも、ハイ/ロー切替は自分の責任だと意識する
- 「見えているつもり」にならず、停止距離と照射距離をイメージする
面倒に感じるかもしれませんが、ライトの操作って、実はハンドル操作やブレーキ操作と同じくらい「命に直結する入力」です。慣れてしまえば、ウインカーと同じ感覚でカチカチ切り替えられるようになりますよ。
筆者の体験談:ハイビームをサボってヒヤッとした話
ここからは、少し肩の力を抜いて、筆者の個人的な話も書いておきます。
以前、仕事帰りに郊外のバイパスを走っていたときのこと。街灯もまばらで本当はハイビームにした方がよかったのですが、「切り替え面倒だし、対向車も多いからロービームでいっか」とロービーム固定で走っていました。
すると、左側の歩道から、自転車に乗った学生さんがフラッと車道寄りにふくらんできたんです。気づいたときには結構近くて、思わず強めにブレーキ。幸い大事には至りませんでしたが、「あれハイビームだったら、もう少し余裕を持って見えてたよな…」とゾッとしました。
その一件以来、
- 対向車が途切れたら一度ハイビームにしてみる
- 街灯が減ったら「ハイビームの出番かも」と自分に声をかける
という小さな癖をつけるようにしました。逆に、市街地では「交差点に入る前にロービームに戻す」こともセットにして、ハイとローをこまめに行ったり来たりさせています。
正直、最初はちょっと面倒でしたが、今ではウインカーと同じくらい無意識で操作できるようになってきました。これで誰かを眩惑せずに済むなら安い手間かな、と思っています。
FAQ:よくある質問
- Q1.夜間、高速道路をずっとハイビームで走っても違反になりませんか?
- A1.対向車線が分離されており、前走車との距離も十分で、他車の交通を妨げるおそれがなければ、ハイビームの継続が直ちに違反と評価される可能性は高くありません。ただし、前走車に近づいたり、車線変更で後ろについたときなどは、ミラーを眩惑させないようロービームへの減光が必要です。
- Q2.「減光等義務違反」で捕まると、免停になりますか?
- A2.減光等義務違反そのものの点数は1点とされており、それ単独でいきなり免停になることは通常ありません。ただし、スピード違反など他の点数と積み重なれば免停ラインに届くこともありますし、眩惑が原因で事故を起こした場合は、別途重い評価を受ける可能性があります。
- Q3.「常時ロービーム」なら安全で違反にもならないから、それでいいですよね?
- A3.法律上、常時ロービームが直ちに違反になるわけではありません。ただし、暗い郊外道路などではロービームの照射距離では前方の歩行者や自転車を十分に確認できず、事故リスクが高くなります。安全確保の観点からは、「周りに他車がいないときは積極的にハイビームを使う」ことが推奨されています。
- Q4.オートハイビーム機能が付いている車なら、全部任せて大丈夫ですか?
- A4.最近のオートハイビームはかなり賢くなっていますが、霧や雨、複雑な交差点などでは完璧ではありません。あくまで補助機能と考え、眩しそうだなと感じたら自分の判断でロービームに切り替える、あるいは必要に応じてハイビームに戻す、といった「最後の判断」は運転者が担う必要があります。
- Q5.対向車がハイビームのまま減光してくれません。こちらもハイビームでやり返したら違反?
- A5.「やり返す」目的でハイビームを向け続けると、自分の側も減光等義務違反や、場合によっては妨害運転として評価されるおそれがあります。イラッとする気持ちはわかりますが、こちら側は淡々とロービームにしておき、必要なら速度を落とすなど防御的な運転を心がけた方が安全です。


