■イントロ
アメリカの道路って、やけにピリピリしてる。
信号待ちでちょっと遅れただけでクラクション。追い越したら執拗な車間詰め。
そして、その先に――銃声が鳴る。
Everytown for Gun Safetyの調査によると、2023年だけで「18時間に1人」が“あおり運転”絡みの銃撃で命を落とすか、重傷を負っている。数字だけ見ても十分異常だが、これが日常の中で静かに積み重なっている現実だということが、さらに怖い。
Everytown for Gun Safety(エブリータウン・フォー・ガン・セーフティ)は、アメリカ最大級の銃規制推進団体です。名前の“Everytown”は「すべての町」という意味で、全米各地の一般市民が「銃による暴力を減らす」という目的で集まってできたネットワークです。

■あおり運転が「撃ち合い」に変わる国
日本で「あおり運転」と言えば、ドライブレコーダーの映像がニュースに出て、「免許取り消し」くらいで終わることが多い。でもアメリカでは、怒りが引き金を引く。
Everytownの分析では、2018年以降、あおり運転に関連する銃撃事件は倍以上に増加。被害者は2023年で483人。想像してみてほしい。
それは単なる数字じゃなくて、夕方の帰り道で突然撃たれる父親、後部座席で泣く子ども、通り過ぎる誰かの運命が狂う――そういう現場の積み重ねだ。
■「車」と「銃」が交わる場所
なぜそんなことになるのか?
理由はいくつもあるけど、突き詰めるとアメリカという国の構造的なクセに行き着く。
1. 銃が車の中にある
アメリカでは車を「移動式の自宅」と考える人も多い。銃を積んで走るのは珍しくない。
Everytownの調査でも、銃を持っているドライバーは持っていない人より攻撃的な運転をする傾向がある。
つまり、車内には“怒り”だけじゃなくて“火薬”まで積まれてる。
2. 許可制が緩い
隠して銃を持ち歩いてもOKな州(いわゆる“permit-less carry state”)では、銃撃事件の発生率が3倍。
銃を持ち歩く自由が、「相手を脅す自由」になってる。
3. ストレス社会の行き場がハンドルの中にある
パンデミック、物価上昇、SNSの分断――ストレスをぶつける場所が限られた結果、道路が「怒りの発散場」になっている。
日本でも似たようなことはあるけど、そこに銃があるかないかの違いは、あまりにも大きい。

■ひとつの事件、ひとつの家族
Everytownのレポートの中に、こんなエピソードがある。
テキサスで、父親が別の車と口論になり、追い抜きざまにクラクションを鳴らした。
次の瞬間、相手の車から銃弾が飛んできて、後部座席にいた8歳の娘が命を落とした。
数秒の怒りが、一家の未来を奪った。
こんな話、映画でもやりすぎに見える。でも現実では、それが「18時間に1度」起きている。
■地図で見ると、ある傾向が浮かぶ
Everytownのデータを細かく見ると、被害が集中しているのはアリゾナ、テネシー、ウィスコンシンなど、いわゆる“銃規制が緩い州”。
全人口の8%しかいないこれらの州が、あおり運転銃撃被害の20%を占めるという。
まるで“自由”という言葉の裏側に、引き金が隠れているようだ。
■日本との違い
じゃあ日本ではなぜ同じようなことが起きないのか。
答えは単純――銃がないから。
怒鳴り声で済むか、せいぜい車をぶつけるくらいで終わる。
でもそれだけじゃない。日本では“公共の恥”を恐れる文化がまだ生きている。
一方アメリカでは、個人主義の強さと、匿名性の高い車社会が、「誰も見てないし、やってもいいだろ」という錯覚を生みやすい。
■対策という名の現実的妥協
Everytownは対策も提言している。
- 銃の隠し持ち制度を厳格化すること。
- ドライブレコーダーや監視システムを拡充すること。
- 運転者教育で「怒りのマネジメント」を組み込むこと。
でも正直なところ、アメリカの銃文化を変えるのは簡単じゃない。
「銃を持つ自由」を神聖視する国で、「銃を持たない勇気」をどう育てるか。
そこが一番難しい。
■終わりに
18時間に1人――この数字をどう受け止めるか。
「遠い国の話」だと思うのは簡単だ。けれど、どの国にも“怒り”はある。
もし、あなたが今日ハンドルを握るなら、少なくとも「一瞬の感情が誰かの人生を壊す」ことだけは思い出してほしい。
怒りを捨てるのは難しいけど、引き金を引かない勇気なら、誰にでも持てる。
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