スペインの安全距離違反と“危険運転”罰則まとめ
おい、闘牛はアンダルシアの闘技場だけで十分だろ? 首都マドリードの環状道路 M-30でクルマを突進させて“人間バンデリリャ”ごっこをする必要はない。知らなかった? スペインは「煽り運転」という単語が法律にないくせに、車間を詰めた瞬間イベリコ豚並みに厳しくブロックする国だ。本稿では、安全距離違反がどうやって「危険運転(Conducción temeraria)」へ昇格し、空からのヘリ監視で丸焼きにされるのかを解説する。約三千字。読み終える頃にはサングリアより“4点減点”という言葉に酔えるはずだ。
【定義:危険運転という万能ソース】
スペイン刑法380・381条は「著しく乱暴で具体的危険を生じさせた運転」は犯罪、とザックリ言い切る。その下位概念として道路交通一般法が「安全距離不保持=重大違反(200ユーロ+4点)」と位置づける。要は車間が短すぎれば行政処分、そこへ速度超過や蛇行が合わさると一気に刑事事件へ変身。交通事故の16%が距離不足絡みという公式統計まであるのに“ちょっと寄っただけ”で済むわけがない。
【取り締まり:Pegasusは空飛ぶ鬼教官】
地上はGuardia Civil Traficoが常時巡回。だが本命は空中要塞Pegasusヘリ。高度300 mからレーザー+ハイビジョンで前後1 kmを監視、速度と車間を同時測定し、ナンバーを瞬時に読み取る。違反映像はリアルタイムで地上パトへ送信→路肩に誘導→罰金確定。ハイウェーの見晴らしが良いほど、あなたの違反もクリアに撮れるという皮肉。固定レーダー網、AI画像解析カメラ、一般通報アプリも加わり「逃げ場は立体的にゼロ」。
【罰則:タパスより多彩な盛り合わせ】
◆行政処分
・罰金200ユーロ(早期納付なら半額)
・免許4点減点(12点スタート型、日本の6点とは別世界)
◆刑事処分(380条・381条)
・懲役6か月〜5年
・運転禁止6〜10年
・罰金24か月分(所得比例なので実質青天井)
死亡・重傷事故を出せば過失致死傷罪で4〜9年の禁錮、行政側では最大4年間の免許取消。南欧の太陽より熱いお灸だ。
【改正トレンド:点数インフレとマルチ違反カメラ】
2022年改正で携帯使用は3→6点へ倍増、安全距離は現状維持だが「優先監視対象」と宣言。2023年からはフランス式AIカメラをテスト導入し、1台で速度・信号・距離・シートベルトを同時検出。DGTは「事故の6分の1は距離不足」と広報し、年3回の集中取締り週間を設定。次のターゲットは「車間自動維持装置データの違反証拠化」だという。
【実例:空から落ちた懲役】
2021年セビリア:SUVが後続車に1 mまで詰めハイビーム連射、時速150 kmで追尾。Pegasusが動画を撮影し、380条で起訴→懲役9か月・運転禁止8年の実刑判決。弁護側「事故は起きていない」と主張も却下。裁判官は「具体的危険は映像の中に存在する」と一刀両断した。
【統計で読むスペイン距離感】
・2024年交通死者:1,145人
─うち183人が追突・玉突き
・安全距離違反の検挙件数:12万8千(前年比+9%)
・Pegasus運用時間:延べ9,000時間、平均15分に1件の違反捕捉
数字はシエスタを取らない。
【保険料スパイス:点数は財布に直撃】
スペインの自動車保険料は失点数に応じて翌年の掛け金が最大30%まで跳ね上がるボーナス-マルス方式。4点減点された瞬間、あなたの等級はフラメンコのステップのように一段降下。マドリード市内平均年額600ユーロが翌年780ユーロへジャンプするのはよくある話。罰金を半額で払っても、保険料が2年間かけて利息を請求してくる――実質的な“後払い型罰金”だ。
【点数制度の死角:回復には時間と講習】
初回12点は優等生の証。しかし累積6点を切った段階で「運転再教育コース」の招待状が届く。受講料275ユーロ、8時間講義+理論テスト付き。合格しても回復するのは+6点まで。満点に戻るには3年無違反が条件。地下鉄パスの方が安くて速いと悟る人が続出している。
【市民通報のリアリティ】
DGT公式アプリ「miDGT」には危険運転動画のアップロード機能がある。2024年は約6万件の通報があり、その43%で罰金が確定。匿名不可のため虚偽通報は少なく、ダッシュカム文化がないスペインでもスマホ1台で“簡易Pegasus”が量産されている。
【将来展望:コネクテッドカーが検察官】
欧州委員会のV2X戦略により、2027年からスペイン販売の新車には「緊急制動情報と車間維持警告ログをクラウド送信する機能」が義務付けられる見込み。DGTはこれらリアルタイムデータを匿名統計として保管し、重大事故時は裁判所の令状で個別照会できる仕組みを検討。クルマが自白する未来はすでに下ごしらえ済みだ。
【余談:Pegasus運用コストと効果】
一機あたり年間運用費は約90万ユーロだが、罰金総額は2024年だけで1億4千万ユーロ超。費用対効果は15倍。スペイン人が払うのはサッカーチケットではなく空撮料だった、という笑えない統計まである。
【旅行者向けサバイバル3箇条】
1. レンタカー会社でADAS付き車両を選択。距離警報ログは後であなたを守る唯一の証人。
2. ハイビームで合図されたら即右へ。譲らず撮られたら200ユーロ。
3. ナビ案内でも携帯を手持ち操作=6点減。免許一発停止への近道。
【日本との比較】
日本の妨害運転罪(懲役5年・免停5年)が表向き重いが、スペインは初回行政200ユーロ→刑事5年と“二段階ロースト”。さらにPegasus+点数制度+運転禁止10年が重ね掛け。要するに「まず軽く罰金で挨拶、次に実刑で本気を見せる」南欧スタイル。
【まとめ:距離と情熱は反比例】
スペインで安全距離を空けることはフラメンコのパルマ(手拍子)より重要だ。熱くなったらまずブレーキ、次に深呼吸、それからオリーブ畑を眺めろ。そうすれば地上でも空からも見張られることなく、地中海の夕日を最後まで楽しめる。――数字は嘘をつかない、情熱より統計を信じろ。
【さいごに】
バルセロナの夜景もバレンシアのパエリヤも、前車との2秒が守れてこそ味わえる贅沢だ。スペイン語で車間距離は“Distancia de seguridad”。観光で最初に覚える単語が「オラ」でも「グラシアス」でもなく、このフレーズならあなたはすでに現地適応率100%。情熱は胸ポケットに仕舞い、両手でハンドルを軽く握り、メーターとミラーの間で2秒を数えろ。そのたった2秒が、警察のヘリと無縁の旅か、鉄格子越しの後悔かを決める分水嶺だ。
数字は嘘をつかない、情熱より統計を信じろ──月曜の朝イチ、Mondayからの最後通告だ。
さあ、エンジンをかける前に深呼吸。距離、それがすべてだ。
それでも踏み込みたいなら、財布と自由に遺言を書け。