コラム

イタリアの安全距離違反と“名称なき煽り運転”の罰則まとめ

イタリアの安全距離違反と“名称なき煽り運転”の罰則まとめ

おい、フィレンツェの石畳でフェラーリをブン回して「これぞイタリアン・ドライビング!」と叫ぶつもりなら、そのエスプレッソ並みに熱い幻想は捨てとけ。イタリアは「あおり運転」という看板こそ掲げていないが、車間を詰めた時点で警察と保険会社があなたの財布をアルデンテに茹で上げる国だ。本稿では、Codice della Strada第149条の乾いた一文が、どのようにして暴行脅迫罪(刑法610条)のスパイスと絡み合い、結果的にあなたを懲役4年のカルボナーラに仕立て上げるのかを解説する。読み終わる頃には、スパゲッティの茹で時間より長い安全距離を保ちたくなるはずだ。





【定義:数字を書かない美学】

ドイツが「2秒ルール」、フランスが「135ユーロ」と明示する一方、イタリア第149条は「常に安全に停止できる距離を取れ」という哲学的記述に留まる。具体的メートル表示ゼロ。運転者の感性に頼るというロマン派だが、裁判所は「あなたの感性、甘すぎ」と容赦なく判定する。急な幅寄せや執拗な追尾も名前はないが、結果として進路を妨害すれば違法行為。実際、トリノ地裁は車で進路封鎖した男に刑法610条を適用し有罪判決、自由の女神ならぬ「自由の没収」を宣告している。

【取り締まり:事故が起きてからが本番】

速度違反や信号無視はその場で止めるくせに、車間距離だけは後追い処理がデフォルト。理由は簡単、警察も距離を測るガジェットを持たないからだ。オービスは速度しか見ないし、車間距離レーダーは導入予定も未定。だから追突事故が発生した瞬間「はい安全距離違反ね」と後出しジャンケンが炸裂する。もっとも悪質だと判断されれば、現場で免許証を没収→仮停止15日。観光客は即日ヴェネチアの水上バス生活へ強制移行だ。

【罰則:ティラミスより積み上がる】

◎違反のみ(事故なし)
 罰金42〜173ユーロ+違反点数3点減点。カプチーノ10杯分で済むと油断するな。
◎物損事故付き
 罰金87〜344ユーロ、同じく3点減点、情状により免停15日〜。レンタカー会社は追加請求でセリエA級シュートを放ってくる。
◎直近2年以内にリピート
 免停1〜3か月+5点減点。保険料はジェラートの値段じゃ済まない。
◎人身事故(重傷以上)
 罰金430〜1731ユーロ、8点減点、場合により危険運転致傷罪で刑事裁判コース。ここからが地中海深海ツアー本番。
◎故意妨害が認定された場合
 刑法610条「暴行脅迫」で最大4年の懲役。冗談抜きでスーツケースより大きい鉄格子がお出迎え。




【最新改正:2024年12月のサプライズ】

イタリアは2020年代に罰金インフレを連発。2024年改正では「車間距離不保持で重大事故を起こしたら初犯でも免停即時発動」という新ルールを実装した。累積点が少ないほど免停期間が長いという逆転方式で、真面目ドライバーほどダメージ倍増。さらに2016年創設の“道路殺人”罪がまだ健在で、アルコール+煽りで死亡事故を出せば最高18年の懲役が視界に入る。スパゲッティより絡みつく厳罰だ。

【取締りテックの遅れとドライブレコーダー革命】

ドイツ・フランスがAIレーダーを配備する隣で、イタリアは依然として「警察官の目視+事故後分析」。しかしここ数年、被害者側がドラレコ映像をSNSにアップ→バズ→警察が動くルートが定番化。結果、国交省にあたるMITが「ドラレコ映像の証拠能力強化ガイドライン」を2023年に発表。技術では遅れても炎上ドライブで追い上げるのがイタリア流。

【統計が語るリアル】

イタリア運輸省の2023年統計によれば、高速道路で起きた追突事故の43%に安全距離不足が絡み、死者は前年比+6%。一方で飲酒運転死亡事故は−3%と減少傾向にあり、「距離こそ最大の殺し屋」という見出しが各紙を賑わせた。EU平均と比べても車間距離関連死は約1.4倍で、ブーツ型半島は“つま先”で人命を蹴飛ばしている状態だ。

【保険料サンドイッチ】

イタリアの自動車保険は地域差が大きく、ナポリではミラノの約1.8倍。挙げ句、車間距離違反で3点失うと平均20%の追加割増。二度目の違反で更に15%。5年継続すると新車購入費並みの保険料になる“サンドイッチ刑”が待つ。だから現地ドライバーはクラクションよりも保険料通知書を恐れる。

【裁判例ディテール】

2021年ボローニャ控訴審:高速でSUVがコンパクトカーの後方1mを100m以上走行。被告は「速度が100km/hなので停止距離は取れていた」。裁判所は「停止距離ではなく安全距離」と一刀両断し610条を適用、懲役8か月・執行猶予2年+免停1年の判決。SNSでは「SUVより鉄格子の方が居住性悪いぞ」と皮肉がバズった。

【未来予想:EU全域のハーモナイズ】

2026年までにEUは高度安全装置(ADAS)の標準装備を義務化。イタリア交通省は「車間距離自動警報が作動した場合、そのログを違反証拠として活用する」方針を検討中。つまりクルマ自らが“自白”する時代が来る。エンジン音で歌う楽しいドライブは、黒箱の告げ口で幕を閉じるかもしれない。

【旅のアドバイス:距離感覚を鍛える三歩】

1. メートル表示の車間距離アプリをスマホに入れ、数字で把握。
2. 速度100km/hなら最低50mを基準(日本の2秒ルール換算+α)。
3. 地元車が近いと感じたら減速して譲る。プライドより保険料を守れ。

【日本との比較】

日本は妨害運転罪で懲役5年+免停最長5年を設定したが、車間距離計測レーダー未導入という点でイタリアと同じ穴のムジナ。ただし日本は事故前に摘発するケースが増えつつあるため、予防面ではわずかに先行。逆にイタリアは事故後の制裁額・懲役年数で殴ってくる後出し火力特化型と言える。

【まとめ:距離はソースより多めに】

イタリアの道路交通法は数字の代わりに裁判例と罰金で距離を測らせる芸術作品だ。警察のレーダーが遅れていようが、事故後の追い込み漁は地中海屈指。一度でも車間を詰めれば、モッツァレラのように柔らかいあなたの貯金が引き伸ばされ、最後は裁判所のオーブンでカリカリに焼かれる。結論は簡単──パスタはアルデンテ、車間はエクストラロング。これさえ守れば、次のバカンスで味わうのはジェラートの甘さだけだ。

――数字は嘘をつかない、情熱より統計を信じろ。