法律

妨害運転罪の最新裁判例4選

あおり運転はどう裁かれているのか?

妨害運転罪が適用された最新裁判例4選【刑事/民事】

2020年6月30日、改正道路交通法が施行され、新たに「妨害運転罪(いわゆるあおり運転)」が新設された。
これは近年の悪質なあおり運転の社会問題化を受けた法改正であり、従来の違反点数処理や危険運転致死傷罪などでは対処が難しかった“悪意ある運転”を明確に処罰するために生まれたものだ。

実際、この法改正以降、妨害運転罪に基づく検挙・起訴・有罪判決が全国で相次いでいる。
中には自転車による妨害運転救急車を狙った犯行など、従来の常識では想像しにくかったような類型も含まれている。

この記事では、実際に妨害運転罪が適用された4つの代表的な裁判例を紹介しながら、
どのような行為が「妨害運転」と判断され、どのような処罰が下されたのかを解説する。




【刑事①】大分地裁:全国初の妨害運転罪適用事件

  • 裁判所/地域: 大分地裁(大分県)
  • 事件概要: 2020年7月、別府市で軽乗用車を運転していた被告が、20代男性の車に急接近し、1分以上クラクションを鳴らしながら約2.8kmにわたって追走。その後割り込んで急減速し衝突。さらに暴行・脅迫も行った。
  • 適用理由: 車間距離不保持・クラクション・急減速・割り込みの連続行為が、他車の通行を明確に妨げており、典型的な妨害運転行為と認定された。
  • 判決: 懲役2年6か月(執行猶予4年)。違反点数25点で免許取消。
  • 裁判所の評価: 「執拗かつ危険な運転で被害者に多大な恐怖感を与えた」とし、厳罰化初適用として高い社会的警告効果をもたせた判決内容。

【刑事②】さいたま地裁:自転車による妨害運転の全国初適用

  • 裁判所/地域: さいたま地裁(埼玉県)
  • 事件概要: 2020年、被告が自転車で自動車の前に飛び出したり、対向車線にはみ出して妨害するなどの行為を複数回行い、車両に急ブレーキを強いた。
  • 適用理由: 改正法では自転車も一部の妨害運転行為の対象であり、進路妨害や通行区分違反などが該当。
  • 判決: 懲役8か月+罰金20万円(実刑)。
  • 裁判所の評価: 「嫌がらせ行為を快感として繰り返す身勝手な犯行」と厳しく批判。猶予中の再犯という事情から実刑判決を下した。

【刑事③】津地裁:救急車への妨害運転

  • 裁判所/地域: 津地裁(三重県)
  • 事件概要: 2024年、救急車の前に割り込んでは急停止を繰り返し、搬送中の患者の命を脅かす行為を約2分間にわたり実施。
  • 適用理由: 進路妨害を明確な意図で反復しており、妨害運転罪と公務執行妨害が成立。
  • 判決: 懲役2年(執行猶予4年)。免許自主返納済。
  • 裁判所の評価: 「人命救助を妨げる非常に悪質な運転」として、法の趣旨を強く反映した判決。情状酌量で猶予はついたが、免許取消処分(欠格2年)も発生。

【民事①】神戸地裁:PTSDを発症した被害者の損害賠償請求

  • 裁判所/地域: 神戸地裁(兵庫県)
  • 事件概要: 原告男性が2012年に暴行を伴うあおり運転を受け、PTSDを発症し就労不能となったとして、加害者に対し約8,800万円を請求。
  • 適用法令: 民事上の不法行為(民法709条)。妨害運転罪の施行前だが、社会的注目を集めた背景から紹介。
  • 判決: 約720万円の損害賠償命令。
  • 裁判所の評価: 「事件とPTSDの因果関係を認定」し、精神的損害を明確に認めた意義深い判決。

妨害運転罪の要点整理:何がアウトでどう裁かれるのか?

  • 対象行為(主な10類型):
    1. 車間距離を極端に詰める
    2. 急ブレーキ・急加速
    3. 不要なクラクション
    4. 急な進路変更・幅寄せ
    5. 無理な割り込み
    6. 執拗な追い回し
    7. 高速道路での停止強要
    8. 左からの追い越し
    9. 通行帯違反
    10. 最低速度違反(遅すぎる走行での妨害)
  • 罰則:
    • 通常:懲役3年以下 or 50万円以下の罰金
    • 高速道路等で危険性が高い場合:懲役5年以下 or 100万円以下の罰金
    • 違反点数:25点(即免許取消・欠格2年)
  • 刑事責任だけでなく民事責任も:

    あおり運転が原因で精神疾患や物損が生じた場合、加害者に数百万円~数千万円単位の損害賠償が命じられる例もある。保険が使えないケース(故意行為)もあり、加害者負担は極めて重い。


まとめ:妨害運転は“感情”では済まされない犯罪

妨害運転罪は、感情の爆発では済まされない「危険な犯罪」として明確に処罰されるようになった。
実刑判決も次々と出ており、判例は全国に広がっている。
一瞬の怒りで運転が荒れ、人生を棒に振ることもある――それが、今の法制度の厳しさだ。

運転中に不満を感じたら、深呼吸を。
煽る前に、思い出してほしい。
「それ、あなたの人生と引き換えにするほどのことですか?」