75歳以上で運転免許を更新するときに受ける「認知機能検査」。調べると、どの記事にも「36点未満だと認知症のおそれあり」と書かれています。
ただ、その36点が何点満点の36点なのかを書いている記事は、ほとんどありません。
答えは100点満点の36点です。しかも配点には大きな偏りがあって、総合点の約80%が「イラストを覚える検査」で決まります。日付や曜日を答える検査は、残りの20%しかありません。
この記事では、警察庁が公開している採点基準をもとに、検査の中身と点数の仕組みを整理します。あわせて、36点未満だったときに何が起きるのか、そこで終わりではないことも書きます。
なお、一定の違反歴がある75歳以上の方が受ける「運転技能検査」は、これとは別の検査です。認知機能検査の36点とは関係ありません。70歳以上・75歳以上で手続きがどう分かれるかという全体の流れは高齢者の免許更新の記事にまとめています。この記事は「検査そのもの」に絞ります。
認知機能検査は、2つの検査だけ

認知機能検査は、次の2つで構成されます。これだけです。
| 検査項目 | 何をするか | 満点 |
|---|---|---|
| 手がかり再生 | 16枚のイラストを覚え、別の作業をはさんだあと、思い出して書く | 32点 |
| 時間の見当識 | 検査を受けている「いま」の年・月・日・曜日・時刻を書く | 15点 |
検査用紙に書く方式のほか、タブレットにタッチペンで入力する方式もあります。
かつては時計の絵を描く「時計描画」という検査項目がありましたが、2022年5月13日に施行された制度改正以降は行われていません。いまは2つだけです。
検査の方法は道路交通法施行規則26条の3で定められており、手がかり再生については「十六の物の図画」を示すと明記されています。16枚という枚数は法令上のものです。
手がかり再生
16枚のイラストを記憶します。そのあと採点に関係しない作業をはさみ、まずヒントなしで思い出して書きます(自由回答)。次にヒントを見ながら書きます(手がかり回答)。
ヒントは16個あり、実際の検査用紙では次の順に並んでいます。
1. 戦いの武器 2. 楽器 3. 体の一部 4. 電気製品 5. 昆虫 6. 動物 7. 野菜 8. 台所用品
9. 文房具 10. 乗り物 11. 果物 12. 衣類 13. 鳥 14. 花 15. 大工道具 16. 家具
イラストは1枚ずつではなく、4枚ずつ4回に分けて示されます(パターンAからDまで、どのパターンでもこの16分類は共通です)。
時間の見当識
検査を受けている時点の年・月・日・曜日・時刻を書きます。年は西暦でも和暦でもかまいません。
「36点」の正体
ここがこの記事の中心です。総合点は、2つの検査の点をそのまま足すのではありません。警察庁が定めた計算式にあてはめて出します。
計算する必要はありません。ここでは「どちらの検査が何点分あるのか」だけ見てください。
総合点 = 2.499 ×(手がかり再生の点)+ 1.336 ×(時間の見当識の点)
手がかり再生は32点満点、時間の見当識は15点満点です。両方が満点だとどうなるか、計算してみます。
- 2.499 × 32 = 79.968
- 1.336 × 15 = 20.040
- 合計 = 100.008
総合点は、実質100点満点です。そして「認知症のおそれがある」と判定されるのは、総合点が36点未満のときです。36点以上なら「認知症のおそれがない」と判定されます。
配点はほぼ8対2で偏っている

上の計算をもう一度見てください。
- 手がかり再生:79.968点分(総合点の約80%)
- 時間の見当識:20.040点分(約20%)
イラストを覚える検査が、総合点の8割を握っています。「今日が何月何日か」を全部間違えても、失うのは20点分です。逆に、日付を完璧に答えられても、イラストを1枚も思い出せなければ20点で終わり、36点には届きません。
36点に届くために必要な点
計算式を逆算すると、こうなります。
| 時間の見当識が | 手がかり再生で必要な点(32点満点) |
|---|---|
| 15点(全問正解) | 7点 |
| 10点 | 10点 |
| 5点 | 12点 |
| 0点(全問不正解) | 15点 |
たとえば時間の見当識が15点なら、計算上は手がかり再生が7点で総合36点以上になります。
これは「7点取ればよい」という目標を示すものではありません。36点という基準が、2つの検査の配点関係の上に成り立っていることを理解するための計算例です。
言いたいのはひとつだけです。「1枚も思い出せなかったら終わり」という検査ではありません。
表記ゆれや言い換えも、幅広く正答として扱われる

採点基準には、次のような取り扱いが明記されています。
- 方言・外国語・通称名で答えても正答(商品名や製造社名、品種を答えた場合を含む)
- 示されたイラストと似ているものを答えても正答
- 誤字や脱字があっても正答
- 回答の順序は採点対象外
- ヒントの欄が対応していなくても、正しく答えられていれば正答(「野菜」の欄に果物の正答を書いた場合など)
つまり手がかり再生では、イラストの名称を一字一句正確に書けるかを競うのではありません。何を示したイラストだったかを思い出せているかを、幅を持たせた基準で判定します。
一方で、次は誤答になります。
- 1つのヒントに2つ以上答えた場合(「果物」に「メロン、りんご」と書く等)
- 時間の見当識で空欄にした場合
- 時刻が前後30分以上ずれている場合(午前・午後の記載の有無は問われません)
- 和暦で検査時とは違う元号を使った場合(令和3年を「平成33年」と書く等)
検査は自宅で体験できる

意外と知られていませんが、警察庁が検査で使う道具を、そのまま公開しています。
- 検査用紙
- イラスト(パターンA・B・C・Dの4種類)
- 採点方法・採点基準
- 進行要領(検査員向けの手順書)
実際の検査では、この4パターンのうち1つが使われます。ダウンロードして、家族に検査員役をしてもらえば、警察庁が公開する進行要領に沿って検査の流れを体験できます。警察庁自身が「検査を体験することができます」と案内しています。
検査の形式や進み方を事前に知っておくと、「何をされるのか分からない」という不安を減らせます。
36点未満だったら、どうなるか

ここが最も誤解されているところです。順番に整理します。
まず、「認知症のおそれあり」は診断ではない
警察庁は、はっきりこう書いています。「検査の結果、『認知症のおそれがある』と判定されても、直ちに認知症であるというわけではありません。」
さらに検査そのものについても、「受検者の記憶力や判断力の状況を確認するための簡易な手法であり、医師の行う認知症の診断や医療検査に代わるものではありません」と注記されています。
判定は、医学的な診断ではありません。
次に、その場で免許がなくなるわけでもない
「認知症のおそれがある」と判定されると、公安委員会(警察)から連絡があり、次のどちらかに進みます。
- 臨時適性検査(専門医の診断)を受ける
- 診断書提出命令により、医師の診断書を提出する
そして、医師に認知症と診断された場合に、聴聞などの手続きを経たうえで、免許の取消しまたは効力の停止が検討されます。
つまり、検査 → 医師の診断 → 手続きという段階があり、検査の結果だけで免許がなくなることはありません。警察庁も「直ちに運転免許が取り消されるわけではありません」と回答しています。
ただし、同じ回答にはこう続きます。「記憶力・判断力が低下すると、信号無視や一時不停止の違反をしたり進路変更の合図が遅れる傾向が見られます」。だから今後の運転に十分注意し、医師や家族に相談することを勧めています。
なお、運転免許試験場等には、本人だけでなく家族も相談できる「安全運転相談」の窓口があります。判定に関係なく利用できます。
そして、何回でも受け直せる
警察庁のQ&Aに明記されています。「検査は何回でも受けることができます」(受けるたびに手数料はかかります)。
さらに重要なのはこの一文です。再受検して「認知症のおそれがない」と判定された場合は、臨時適性検査や診断書提出命令の対象になりません。
1回の結果で確定するものではない、ということです。
検査を受けなくてよい場合
更新期間が満了する日の前6か月以内に、次のいずれかに当てはまる場合、受検義務が免除されます。
- 臨時適性検査を受けた、または診断書提出命令を受けて診断書を提出した
- 認知症に該当する疑いがないかどうかについての医師の意見と、その検査結果が書かれた診断書等を提出した
- その6か月以内に、新しく免許を受けた(道路交通法施行規則29条の2の3第1号)
ただし、診断書には必要な記載事項や検査項目が定められています。手元にある診断書をそのまま出せばよい制度ではありません。事前に運転免許試験場・センター等へ確認してください。
なお、普段まったく運転していなくても、更新するなら受検は必要です。運転頻度は関係ありません。
更新のときだけではない:臨時認知機能検査
75歳以上の方が特定の交通違反をした場合、更新の時期とは関係なく、臨時に認知機能検査を受けることになります。検査の実施要領は、更新時のものと同じです。
対象には、信号無視、指定場所一時不停止等、横断歩行者等妨害、安全運転義務違反など18の類型があります。
これは、更新時の運転技能検査の対象を決める「11類型」とは別の制度です。数字が近いので混同されがちですが、目的も対象者も違います。
18類型の全部を見る
信号無視/通行禁止違反/通行区分違反/横断等禁止違反/進路変更禁止違反/しゃ断踏切立入り等/交差点右左折方法違反/指定通行区分違反/環状交差点左折等方法違反/優先道路通行車妨害等/交差点優先車妨害/環状交差点通行車妨害等/横断歩道等における横断歩行者等妨害/横断歩道のない交差点における横断歩行者妨害/徐行場所違反/指定場所一時不停止等/合図不履行/安全運転義務違反
臨時認知機能検査で「認知症のおそれがある」となった場合も、臨時適性検査または診断書提出という流れは同じです。
また、前回「認知症のおそれがない」だった方が今回「おそれがある」と判定された場合などは、臨時の高齢者講習を受けることになります。
手数料と、受けられる時期
公安委員会が行う認知機能検査の手数料は、道路交通法施行令が定める標準額で1,050円です。実際の額は都道府県ごとに定めるため、住所地の警察のページで確認してください(公安委員会の認定を受けた民間機関が行う検査では、料金の体系が異なる場合があります)。
受けられる時期は、更新期間が満了する日の6か月前からです。対象の方には、その6か月前までに警察から検査の通知が届きます。
検査の結果は、書面(はがき等)で通知されます。なお、免許の色や講習区分といった更新まわりの仕組みはゴールド免許の記事で整理しています。
まとめ
- 認知機能検査は手がかり再生(32点)と時間の見当識(15点)の2つだけ。時計を描く検査は現在ない
- 総合点は「2.499×手がかり再生 + 1.336×時間の見当識」で計算し、実質100点満点。36点未満で「認知症のおそれあり」
- 配点はほぼ8対2。総合点の約80%は手がかり再生で決まる
- 採点は方言・通称名・類似物・誤字脱字を正答扱いにするなど、幅を持たせた基準になっている
- 警察庁が検査用紙とイラスト4パターンを公開しており、自宅で体験できる
- 「認知症のおそれあり」は診断ではない。医師の診断を経てはじめて取消し等が検討される
- 何回でも受け直せる。再受検で「おそれなし」なら臨時適性検査等の対象にならない
- 手数料は標準額1,050円。満了日の6か月前から受けられる
- 判定に関係なく、運転の不安は運転免許試験場等の「安全運転相談」で本人も家族も相談できる
- 一定の違反歴がある方が受ける「運転技能検査」は別の制度。36点とは関係ない
筆者から
この検査について調べていて驚いたのは、警察庁が問題そのものを公開していることでした。イラスト4パターンも、採点基準も、検査員向けの進行要領まで出ています。
「抜き打ちで測る」のではなく、「事前に見てもらってかまわない」という設計です。それでも成立する検査だから公開しているのだと思いますが、受ける側からすると、これは知っているかどうかで気持ちがまったく違います。
家族が対象なら、一度いっしょにやってみるのがいいと思います。当日はじめて見る、という状況を避けられるだけで、余計な緊張は減ります。
よくある質問
Q. 認知機能検査は何歳から受けるのですか。
A. 免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上の方です。70〜74歳は高齢者講習だけで、認知機能検査はありません。
Q. 普段まったく運転していませんが、受けなければいけませんか。
A. はい。運転の頻度にかかわらず、更新するには受検が必要です(免除に当てはまる場合を除きます)。
Q. 「認知症のおそれがある」と判定されたら、すぐ運転をやめないといけませんか。
A. 警察庁は「直ちに運転免許が取り消されるわけではありません」としています。ただし、その後に医師の診断を受ける手続きが控えています。運転に不安があるときは、運転免許試験場等の「安全運転相談」窓口や、医師・家族に相談してください。
Q. 何点満点の検査ですか。
A. 計算式の上では実質100点満点です(2.499×32+1.336×15=100.008)。
Q. 検査は何回でも受けられますか。
A. 受けられます。ただし受けるたびに手数料がかかります。
Q. 検査を実施するのは医師ですか。
A. 医師とは限りません。公安委員会から委託・認定を受けた機関では、21歳以上で、公安委員会が行う講習を修了した人などが検査を実施します。
Q. 検査で使うイラストは毎回同じですか。
A. パターンA〜Dの4種類が公開されており、実際の検査ではそのうちの1つが使われます。
Q. 結果はその場で分かりますか。
A. 実施する場所によって、当日に書面を渡される場合と、後日書面で通知される場合があります。なお、受けた本人が申し出れば、検査を受けた日・場所・結果を記載した書類を交付してもらえます(道路交通法施行規則26条の3第2項)。
Q. 認知機能検査と運転技能検査は同じものですか。
A. 別の検査です。運転技能検査は、一定の違反歴がある75歳以上の方が実車で受けるもので、認知機能検査の36点とは関係ありません。
更新そのものをうっかり忘れてしまった場合の手続きは、免許更新を忘れたときの記事で扱っています。
根拠法令・出典
- 道路交通法101条の4第2項(75歳以上の更新時認知機能検査と受検免除の枠組み。1項=70歳以上の高齢者講習、3項=運転技能検査)
- 道路交通法102条1項〜4項(臨時適性検査・診断書提出命令等)
- 道路交通法施行規則26条の3(認知機能検査の方法。「十六の物の図画」)
- 道路交通法施行規則29条の2の3(認知機能検査等を受ける必要がない場合)
- 道路交通法施行規則29条の3第1号(総合点の計算式と「36未満」の基準)
- 道路交通法施行令43条(手数料の標準額)
- 警察庁「認知機能検査について」 https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/ninchi.html
- 警察庁「採点方法」「採点基準」「認知機能検査 Q&A」「検査用紙」「イラスト パターンA〜D」「進行要領」
- 警察庁「臨時認知機能検査の対象となる特定の交通違反」
制度や手数料は改正・都道府県によって変わります。手続きの前に、住所地の都道府県警察のページで最新の内容を確認してください。

