心理学・行動(運転心理)

怒りっぽい人は運転が荒くなる?特性怒りと危険運転の研究

些細なことにイラッとして運転するドライバー

前回の記事では、「焦り(フラストレーション)」という状況が運転を荒くする、という話をしました。では、同じ渋滞、同じ割り込みでも——荒くなる人とならない人がいるのはなぜでしょう。

その差の一つが、「怒りっぽさ」という性格です。心理学ではこれを特性怒り(とくせいいかり)と呼びます。この記事では、「怒りやすい性格」が運転にどう表れるのかを、研究ベースで解説します。

⏱ この記事の要点(30秒)

・怒りには「その場の怒り(状態怒り)」と「怒りやすい性格(特性怒り)」の2種類がある

・特性怒りが高い人は、自己報告上の攻撃的な運転行動が約3.5〜4倍多いと報告されている(事故が4倍という話ではない)

・ただし「性格だから直らない」ではない。怒りの”扱い方・出し方”はトレーニングで変えられることも研究で示されている

・大事なのは「自分は怒りやすいタイプかも」と知っておくこと

「特性怒り」とは——その場の怒りと、性格の怒り

心理学者の Spielberger は、怒りを2つに分けて考えました(State-Trait Anger Expression Inventory, STAXI)。

状態怒り(state anger):いま、この瞬間に感じている一時的な怒り

特性怒り(trait anger):怒りをどれくらい頻繁に・強く感じやすいかという、性格のような傾向

たとえば同じ「割り込まれた」出来事でも、カッとなる度合いは人によって違います。ちょっとしたことでも強く長く怒る人もいれば、たいていのことは受け流せる人もいる。この「怒りの起きやすさ」の個人差が特性怒りです。

同じ割り込みに穏やかな人と激怒する人の対比

Spielberger の尺度では、特性怒りは10項目ほどの質問で測られ、「怒りを感じやすい性格傾向」として捉えられています。つまり怒りっぽさは、気分の問題ではなく、ある程度その人に安定した特徴なのです。

そして、この特性怒りが運転にもはっきり表れることが、研究でわかっています。

研究:怒りっぽい人は、運転でも危険が多い

運転の怒りを長年研究してきた Deffenbacher らは、運転怒り尺度(DAS)を使って、ドライバーを「怒りが高い群」と「低い群」に分けて比較しました(Deffenbacher et al., 高怒り・低怒りドライバーの比較)。

結果は、はっきりしていました。

  • 高怒りドライバーは、自己報告上の攻撃的な運転行動が約3.5〜4倍多い
  • 危険な(攻撃的ではない)運転も1.5〜2倍多い
  • 日常の運転で、より頻繁に・より強く怒りを感じている
  • ニアミス(ヒヤリ)や交通違反の切符も多い

しかも重要なのは——両群は運転する回数も走行距離もほぼ同じだったこと。「運転する機会が多いから荒いことも多い」のではなく、同じだけ運転していて、怒りっぽい人のほうが危険な行動が多かったのです。

さらに高怒りドライバーは、怒りを敵対的・攻撃的な形で表に出しやすく、逆に落ち着いて建設的に対処するやり方は少なかったと報告されています。怒りやすさは、「感じ方」だけでなく「出し方」にも表れるわけです。

運転中に強く苛立ち攻撃的になるドライバー

なぜ、性格が運転に出てしまうのか

ここからは、上記の研究結果と、これまでの記事で扱った匿名性・引き金の話をふまえた筆者の整理です。

特性怒りが運転に表れやすいのには、理由があります。

  • 運転は”引き金”だらけ:割り込み、ノロノロ運転、クラクション——イラッとする場面が次々に来る。怒りやすい人ほど、その一つひとつに強く反応する
  • 匿名で、逃げ場がない:車という個室で、相手と直接向き合わない。匿名性が攻撃性を上げることも知られている
  • 怒りの”出し方”の癖が出る:普段から怒りを敵対的に出しやすい人は、運転でもそのやり方が出る

つまり運転は、もともとの怒りやすさが、増幅されて表に出やすい場面なのです。穏やかな場面では隠れている性格が、ハンドルを握ると顔を出す——心当たりのある人もいるかもしれません。

割り込み・赤信号・遅い車など次々に来る引き金に反応するドライバー

でも「性格だから」で終わらせない

ここが、この話でいちばん大事なところです。

特性怒りは「性格のような傾向」ですが、変えられないもの(=運命)ではありません。同じ Deffenbacher らの研究では、認知行動療法(CBT)的なトレーニング——リラクセーション、考え方のクセの修正(認知再構成)、対処スキルの練習——によって、運転中の怒り・攻撃・危険運転、そして日常の怒りそのものが減り、その効果が維持されたことが示されています。

大切なのは、特性怒りそのものを別人のように変えるという話ではない点です。変えられるのは、怒りとの付き合い方や、運転中の怒りの”出し方”。怒りやすさは、生まれつきで決まる烙印ではありません。

苛立ちから深呼吸で落ち着いていくドライバー
  • 「自分は怒りやすいタイプかも」と認める:これが出発点。自覚がある人は、身構えることができる
  • その場の怒りを鎮める技術を持つ:深呼吸、間を置く、実況中継。コーピングの記事で具体的に紹介しています
  • 考え方のクセを見直す:「わざとやった」と決めつけていないか(→ 敵意の誤解

自分の怒りやすさを知りたい人は、運転の怒りセルフチェックも試してみてください。

自分の怒りやすさを自覚し穏やかに運転するドライバー

この話にも限界がある

研究記事として、正直にお伝えします。

  • 特性怒りは危険運転の強い要因の一つですが、唯一の原因ではありません。焦り・匿名性・その日の体調など、状況の影響も大きい(→ 焦りの記事)。
  • 「怒りが高い=必ず事故を起こす」ではありません。あくまで確率的に多いという話で、個人差があります。
  • 研究の多くは海外の自己申告データを含みます。日本の交通環境や、”荒さ”の出方がそのまま同じとは限りません。

それでも、「怒りやすい性格が運転にも表れる。ただし怒りの”扱い方”は変えられる」という知見は、自分の運転を見直すうえで役に立ちます。

まとめ

  • 怒りには「その場の怒り(状態怒り)」と「怒りやすい性格(特性怒り)」がある(Spielberger)
  • 特性怒りが高い人は、同じだけ運転していても自己報告上の攻撃的な運転行動が多い傾向(約3.5〜4倍の報告)+ニアミスや違反も多い(Deffenbacher ら)
  • それは運転が「引き金だらけ・匿名・怒りの出し方が出やすい」場面だから
  • ただし特性怒りそのものより、怒りの扱い方・出し方はトレーニングで変えられる
  • 出発点は「自分は怒りやすいかも」と知っておくこと

性格は簡単には変わりません。でも、性格に振り回されない技術は身につけられます。「自分は怒りやすい」と知っている人ほど、ハンドルの前でひと呼吸置ける——その自覚が、路上の安全を守ります。

よくある質問

Q. 怒りっぽい性格は、もう直らないんですか?
A. 「性格そのものを別人に変える」のは難しいですが、怒りとの付き合い方は変えられます。研究でも、トレーニングで運転中の怒りや攻撃が減り、効果が続いたと報告されています。まずは自覚と、その場で鎮める技術から。

Q. 普段は穏やかなのに、運転すると人が変わります。なぜ?
A. 運転は「引き金が多い・匿名・逃げ場がない」という、怒りが表に出やすい特殊な場面だからです。普段隠れている怒りやすさが、運転で増幅されて出ることがあります。異常と決めつける必要はありません。運転は、怒りが表に出やすい場面の一つです。

Q. 自分が怒りやすいタイプか知る方法は?
A. 完璧な自己診断は難しいですが、運転の怒りセルフチェックが目安になります。「よくクラクションを鳴らす」「後ろの車にイラつく」などが多ければ、特性怒りが高めかもしれません。

この記事の出典

  • Spielberger, C. D. (1988/1999). *State-Trait Anger Expression Inventory (STAXI).* 状態怒りと特性怒りを区別して測定する代表的尺度。
  • Deffenbacher, J. L., et al. Anger, aggression, and risky behavior: a comparison of high and low anger drivers. *Behaviour Research and Therapy.*(高怒り・低怒りドライバーの比較)
  • Deffenbacher, J. L., et al. (1994). Development of a Driving Anger Scale. *Psychological Reports*, 74, 83–91.(運転怒り尺度 DAS の原典)

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