海外交通ルール

スイスの「あおり運転」超高額罰金とは?所得連動制度で安全意識向上

あおり運転(車間距離不保持など)に対する罰則は日本でも強化されましたが、スイスではさらに驚くような高額罰金が科されることをご存知でしょうか?最近スイスで、前の車に「あおり運転」をした男性に約1650万円(9万8500スイスフラン)の罰金が言い渡され、大きな話題となりました。その背景には、違反者の所得に応じて罰金額が決まる独特の制度があります。本記事ではこのスイスの所得比例罰金制度の仕組みと実例、同様の制度を持つフィンランドの高額罰金事例、さらにスイス警察の厳格な取締り方法や、執行猶予付き罰金制度の意味、そして集められた罰金収入の使い道について解説します。スイスの取組みを知ることで、日本のドライバーにも交通安全への意識向上の大切さが伝われば幸いです。

所得比例罰金制度とは?スイスでの適用事例

スイスでは交通違反の罰金額が違反者の所得に比例して決まる制度が採用されています。年収が高い人ほど罰金も高額になるこの仕組みにより、富裕層であればあるほど「痛み」を感じる額の罰金が科されるのです。実際に2023年3月、スイス北部アールガウ州の高速道路で前走車との車間距離をわずか8~12mしか空けずに高速走行した58歳の男性弁護士が摘発され、約1650万円(9万8500CHF)もの罰金を科せられました。日本ではあおり運転(車間距離不保持)は「妨害運転罪」として最大でも懲役5年または100万円以下の罰金ですが、スイスのこのケースでは日本の上限をはるかに超える異例の金額となりました。

この男性の罰金額がここまで高額になったのは、彼の高い収入が反映されたためです。裁判所は彼の日々の所得を約1970スイスフラン(約33万円)と算定し、それを50日分(50日間の収入相当)として罰金額を導き出しました。つまり年収にして推定約1.6百万スイスフラン(約2億7千万円)という富裕層だったことが、この罰金額に直結したのです。なおスイスの所得比例罰金には最低額も定められており、どんなに所得が低い人でも約300ドル(約4万円)程度の罰金は科されるルールになっています。

スイスでこの所得比例罰金制度が導入された背景には、罰金の公平性と抑止効果を高める狙いがあります。固定額の罰金では富裕層にとっては「痛くも痒くもないお小遣い程度」ですんでしまい、違反抑止力が働きにくいですが、所得連動により誰にとっても経済的打撃となる額が科されれば「二度とやりたくない」と思わせる効果が期待できます。この制度のおかげで、スイスは交通事故死亡率が人口10万人あたり2人程度と非常に低い水準に抑えられているとも言われます*。金額面で容赦のない厳しい制度ですが、それだけ交通安全に本気だという表れでしょう。

フィンランドの超高額罰金例:その背景

所得比例罰金制度はスイスだけでなく、フィンランドなど他の一部の欧州諸国でも採用されています。そのため、フィンランドでも高額罰金のニュースが時折話題になります。例えば2023年6月、フィンランド在住の実業家アンデルス・ヴィクロフ氏(76歳)は、制限速度50km/hの道路を82km/hで走行するスピード違反を犯し、約12万1000ユーロ(約1800万円)もの罰金を科せられました。超過速度は32km/hでしたが、日本なら罰金はせいぜい数万円規模(違反点数6点で免許停止)にとどまるところ、フィンランドでは桁違いの額となったわけです。

ヴィクロフ氏にこれだけの罰金が科されたのも、やはり彼が大富豪で高所得だったからに他なりません。フィンランドの罰金計算では違反者の1日あたりの可処分所得額を基準に算出されます。ヴィクロフ氏の場合、事業で成功を収め莫大な収入を得ていたため、高額罰金となりました。事実、彼は過去にも2013年に約9万5000ユーロ2018年に約6万3680ユーロという罰金を支払った経歴があり、繰り返しスピード違反で痛い目を見ていました。さすがに本人も「本当に後悔している」と述べていますが、同時に「フィンランドでは医療費を15億ユーロ削減する計画だと聞いているので、私の罰金がその穴埋めになればいい」とブラックジョークめいたコメントも残しています。自身の巨額の支払いが社会の役に立つことを願うあたり、罰金が単なる懲罰でなく公共財源にもなっている現実を皮肉交じりに示した形です。

スイス警察の徹底取締り:移動オービスと覆面車

このように高額な罰金が科されるスイスですが、その背景には警察当局の厳格な取締り姿勢があります。スピード違反や危険運転を見逃さないため、スイス警察は日本以上に取り締まり技術を駆使しています。高速道路や一般道には固定式の速度取締カメラが多数設置されているほか、移動式オービス(可搬型速度違反自動取締装置)も各地で運用されています。さらに、覆面パトカー(未マーキング車両)による監視・追跡も行われ、ドライバーが警察の目を意識せず速度超過やあおり運転に及んだところを見計らって検挙されるケースも少なくありません。実際、前述の車間距離不保持の摘発も、警察の証拠写真(おそらく覆面車両か遠隔カメラで撮影)が決め手となりました。

スイスではレーダー探知機やカメラ位置を警告するアプリの使用も禁止されており、もし発覚すればスマートフォンの押収や罰則の対象となります。取締り情報を事前に知って回避することは難しく、常に「どこかで見られている」前提で運転せざるを得ません。また、高速道路上では「追尾式」と呼ばれる取り締まり方法もあり、覆面車両が違反車両を一定距離追尾して速度や挙動を計測し、違反事実を押さえる手法が取られます。日本でも覆面パトカーによる速度違反取り締まりはありますが、スイスではより頻繁かつ巧妙に行われている印象です。こうした徹底した取り締まり体制があるからこそ、あおり運転やスピード違反に対して高額罰金を科すことにも説得力が生まれると言えるでしょう。

執行猶予付き罰金制度とは?

先述のスイスのあおり運転事例では、実は科された約1650万円の罰金に2年間の執行猶予が付されました。これは「執行猶予付き罰金刑」とも言える制度で、判決後一定期間(この場合2年)違反や再犯をしなければ、その罰金の支払いが免除されるというものです。言い換えれば、2年間無事故無違反で過ごせば約1650万円は払わずに済む代わりに、もし猶予期間中に再び違反を犯せば一転して支払い義務が生じるという条件付きの罰金刑です。かなりユニークな制度ですが、これはスイスの刑法で定められた仕組みで、例えば「2年以下の自由刑または罰金刑」は情状に応じて執行猶予を付すことが可能となっています。今回のケースでは、裁判所も「初犯」である点などを考慮して罰金刑そのものは猶予としたのでしょう。

この執行猶予付き罰金制度の意味するところは、「違反自体は重く罰する判決を下すが、更生の機会も与える」というバランスにあります。巨額の罰金を即時に払わせるのではなく、一定期間の様子を見ることで、違反者が今後安全運転を誓う契機とする狙いがあります。とはいえ猶予中に再び違反すれば容赦なくあの高額罰金が降りかかるわけで、違反者にとっては冷や汗ものの試験期間です。「もう2年ぐらい運転しないほうがいいんじゃないの?」と皮肉を言いたくもなりますが、それほどまでに厳しい条件を課すことで、本人のみならず周囲のドライバーにも強い戒めとなっているのです。

集めた罰金はどこへ?安全対策への還元

巨額の罰金が徴収された場合、そのお金は一体どこに行くのでしょうか? スイスやフィンランドでは、これらの罰金収入は基本的に国庫や自治体の財政に組み込まれ、交通安全対策や公共の安全施策に充てられると言われます。特にスイスは交通事故撲滅に向けた「ヴィジョン・ゼロ」を掲げており、罰則強化や取締り強化と並行して、道路インフラの改善や安全教育にも力を入れています。罰金による収入もそうした安全プロジェクトの財源の一部となり、ドライバーへの啓発キャンペーンや安全設備の整備などに還元されているのです。

フィンランドのヴィクロフ氏のコメントにもあったように、自分の支払った罰金が「医療費削減の穴埋めになれば」といった声もありますが、いずれにせよ罰金は社会に戻って公共の利益に役立てられます。むろん「だから違反しても社会貢献になるからいいや」という話では全くありません。罰金を払わず済むよう最初から安全運転を心がけることこそ、ドライバーに求められる姿勢です。そうした意識が広まること自体が最大の交通安全対策であり、罰金制度や取締り強化はその意識改革を促すための重要な手段と言えるでしょう。

まとめ:日本の安全意識向上に向けて

スイスの所得比例罰金制度や厳格な取締りは、日本のドライバーから見ると「やりすぎ」に映る部分もあるかもしれません。しかし、その徹底ぶりが交通事故の犠牲者を減らし、安全意識を高めているのも事実です。日本でも近年あおり運転への厳罰化が進みましたが、罰金額や摘発手法の点ではスイスやフィンランドほどのインパクトはありません。もちろん国情や道路環境の違いはありますが、「違反したら給料が吹き飛ぶかも」と思えば、誰しも運転が慎重になるのは想像に難くないでしょう。

本記事で紹介したスイスの事例は極端にも見えますが、「違反者にはそれ相応の社会的責任を負ってもらう」という考え方は、交通社会全体の安全意識向上につながる重要な視点です。私たち日本のドライバーも、自分の運転が他人の命や生活に影響を与えうることを改めて肝に銘じ、ルールを守るだけでなく、思いやりと余裕を持った運転を心掛けたいものです。罰金のお世話にならずに済むよう、一人ひとりが安全運転の担い手となることが、最終的には理想と言えるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1: スイスの所得比例罰金制度では具体的にどうやって罰金額を決めるの?

A1: スイスでは罰金刑の金額を「日額 × 日数」で算出します。裁判所が違反者の経済状況に応じて1日あたりの金額(日額)を決め、それに違反の重大さなどに応じた日数(最大360日程度*)を掛け合わせた合計が罰金となります。日額は原則30~3000CHFの範囲で、裕福な人ほど上限に近い高い日額が設定されます。今回のケースでは日額約1970CHF×50日分=98500CHF(約1650万円)でした。

Q2: 執行猶予付き罰金とは何ですか?

A2: 執行猶予付き罰金とは、言い渡された罰金刑の支払いを一定期間猶予し、その期間中に違反がなければ支払いを免除する制度です。たとえば「2年の執行猶予付きで罰金50日分」と言われた場合、直ちに払う必要はなく、その後2年間無違反で過ごせば罰金の納付義務は消えます。ただし猶予中に再び違反すると、猶予されていた罰金を支払わなければなりません。違反者に改善のチャンスを与える一方で、再犯には厳しく対処する趣旨の制度です。

Q3: 日本でもスイスやフィンランドのような所得連動型の罰金制度は導入できないの?

A3: 現状、日本の交通違反の罰金は違反内容ごとに一定の金額が定められており、違反者の所得によって金額が変わる仕組みはありません。所得連動の罰金制度には「公平で抑止力が高い」というメリットがありますが、一方で所得を正確に把握する手間や、罰金の算定が複雑になるといった課題もあります。また「罰金は罰則であって税金ではない」とする考え方もあり、日本で直ちに導入する動きはありません。ただし今後、悪質な違反者への制裁強化の議論が進めば、何らかの形で所得要素を取り入れた罰金制度が検討される可能性はゼロではないでしょう。

根拠となる法令

  • スイス連邦刑法典 第34条 – 罰金刑の日数と日額の算定方法(所得連動の罰金制度)。
  • スイス道路交通法 – 重大な交通違反に対する罰則規定(危険運転や極端な速度超過は重罪として処罰)。
  • フィンランド刑法 – 日割計算による罰金(päiväsakko、違反者の所得に応じた罰金計算)。
  • 日本道路交通法 第117条の4の2 – 妨害運転罪(あおり運転)の罰則。

(本記事の文字数: 6053字)


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