海外交通ルール

イギリス流「あおり運転」対策:市民通報制度から厳罰化・AIまで

イギリス(英国)では、いわゆる「あおり運転(tailgating)」への対策が日本とは異なる角度から進められています。本記事では、英国の一般ドライバー向け「あおり運転」対策の最新事例を紹介します。市民がドライブレコーダーの映像を警察に提供する「オペレーション・スナップ」制度の仕組みと効果、厳しい刑罰の適用事例、法律上の扱い(独立した罪ではない点)、覆面パトカーによる取締り手法、「スペースインベーダー」に代表される啓発キャンペーン、そしてAI搭載カメラによる違反検知の試験導入と将来展望まで、幅広く解説します。あなたの安全運転にもきっと役立つ情報です。

仕組み:市民映像通報制度「Operation Snap」の効果

英国では2010年代より、ドライバーが自身のドライブレコーダー(Dash Cam)映像を警察に直接提供して違反を報告できる制度が整えられました。その代表例が「オペレーション・スナップ(Operation Snap)」です。これはオンライン上の「ナショナル・ダッシュカム安全ポータル(National Dash Cam Safety Portal)」を通じて一般市民が交通違反の映像と証言を警察に送信できる仕組みで、2017年にウェールズで導入され、その後2021年までにイングランド・ウェールズの大半の警察に展開されました。

この制度により、年間十万件を超える規模で市民からの違反映像が警察に寄せられています。実際、2023年には英国全体で推計約125,000件(1日あたり約342件)の映像通報が行われたとされ、そのうち約70%に当たる映像が何らかの警察対応(違反者への警告書送付、違反切符の発行、運転講習の受講命令、起訴など)につながっています。これは毎年およそ9万件近くの違反が市民提供の映像によって摘発・是正されている計算です。このように、一般ドライバー自らが「動く監視カメラ」となって違反通報に参加できる仕組みが、あおり運転を含む危険運転の抑止力として機能しているのです。

Operation Snapではオンラインフォームに沿って動画ファイルと必要事項を送信するだけで報告が完了します。警察は送られた映像のナンバープレート情報などから違反車両の所有者を特定し、証拠映像を精査した上で処分を決定します。映像が鮮明で違反が明白な場合、多くは警察から違反車両の運転者に対し注意喚起や罰金通知が行われ、悪質なケースでは裁判所での起訴に至ります。実際、オペレーション・スナップ導入以降、警察による交通違反の摘発件数が飛躍的に増加した地域もあります。例えば、サウスヨークシャー州では同制度導入後に映像通報件数が約19倍に増加したとのデータもあります(それだけ多くの市民が自発的に違反報告に参加していることを示します)。このような市民協力型の取り組みは、警察の目が行き届かない場面でも危険運転を見逃さない効果があり、「あおり運転をしたら誰かに撮られて通報されるかもしれない」という抑止力にもなっています。

オペレーション・スナップ公式ページ

実例:悪質な「あおり運転」への厳しい刑罰

英国では、悪質なあおり運転(ロードレイジ)によって悲惨な結果を招いたドライバーに対し非常に厳しい刑罰が科された事例があります。例えば2024年7月、ロンドン近郊で発生した事件では、乗用車の男性運転手が前方のスクーターに対して執拗に追跡・異常接近し、最終的に意図的に追突して転倒させるという報復的な危険運転が起きました。スクーターを運転していた男性は事故の衝撃で死亡し、この加害運転手は裁判で過失致死(manslaughter)の有罪判決を受け、懲役13年の実刑が言い渡されています。この事件ではドライブレコーダーや防犯カメラの映像も証拠として提出され、裁判官は「危険運転が悲劇的な結果を招いた完全に回避可能なケースだ」と厳しく非難しました。

また、死者こそ出なかったものの重傷者を出したあおり運転事故でも、加害ドライバーに対して実刑と運転禁止処分が科された例があります。2024年に別の事例で、危険運転により同乗者に重傷を負わせた男性ドライバーに対し懲役12年(危険運転致死傷罪での有罪)と長期の運転免許停止処分が下されたケースが報じられました。さらに英国法では、被害者が重傷にとどまった場合でも「重大な加害結果を伴う危険運転(Causing serious injury by dangerous driving)」という罪が適用され、最大5年の禁錮刑および最低2年間の運転禁止(再試験義務付き)が科され得ます。実際にこうした厳罰規定により収監・免許取消しとなったドライバーもおり、「あおり運転」で他人に重大な危害を加えれば長期間にわたり社会から隔離され、公道から排除されるのが英国の現状です。

上記12年の実刑判決は警察発表による2024年末時点の情報。実際の裁判結果により刑期等は変動する可能性があります。

日本では2020年に「あおり運転」自体を処罰する「妨害運転罪」が創設され話題になりましたが、英国には「あおり運転」という名前の独立した犯罪類型は存在しません。しかし「あおり運転」はその態様に応じて既存の交通犯罪として十分取り締まりが可能です。英国では主に以下の法律・違反が該当します。

  • 運転不注意・配慮欠如(Careless driving / Driving without due care and attention or reasonable consideration): 車間距離不保持による他車への迷惑行為はこの違反に問われる場合が多く、一般的な処分は罰金100ポンドと違反点数3点です。いわゆる軽度の「あおり運転」はまずこのカテゴリーで処理されます。
  • 危険運転(Dangerous driving): 極めて悪質で危険な運転はこの重大違反に問われます。例えば高速道路で故意に車間を詰め急ブレーキを誘発するような行為等は危険運転とみなされ、最長で懲役2年までの刑事罰(クラウン法廷で審理された場合)および最低1年間の運転資格剥奪(免許取消+再試験)が科されます。危険運転罪は日本の「危険運転致死傷」と異なり死亡や傷害の結果がなくとも成立する犯罪で、悪質なあおり運転はこちらに該当し得ます。
  • 重大過失致死傷(Causing death or serious injury by driving): あおり運転の結果、被害者を死傷させた場合にはさらに重い罪が適用されます。死亡事故を起こせば「危険運転致死罪(Causing death by dangerous driving)」に問われ、法定刑は最長14年の禁錮刑まで引き上げられています。重傷止まりでも前述の「危険運転致重傷罪」に問われ最大5年の禁錮刑が科され得ます。またこれらの場合はいずれも最低12か月以上の運転禁止処分(実務上はより長期)となり、刑期終了後に再度運転免許試験の受験が義務付けられます。

このように、英国では法律上「あおり運転」という名前こそ出てきませんが、実態に応じて「不注意運転」「危険運転」として処罰できる柔軟な仕組みがあります。特に悪質なケースでは刑務所収監や長期の免許取消しといった厳しい処分が科されるため、法律面から見ても決して「あおり運転に寛容」ではないことが分かります。

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誤解と実態:「あおり運転」は本当に一握りの悪質ドライバーだけ?

「あおり運転」というと、映画のワンシーンのように一部の暴走ドライバーが執拗に他車を追い回す極端なケースを想像しがちです。しかし英国の交通当局によれば、実際には「あおり運転」の大半はドライバー本人が無自覚のまま行っているという指摘もあります。Highways England(現National Highways)が発表した調査では、危険な車間距離で走行する行為の多くは「意図的かつ攻撃的なものではなく、前方との距離が近すぎることに気づいていない無意識の運転」が原因と分析されています。言い換えれば、悪質な「あおり屋」だけでなく、一般ドライバーも注意不足から他車を威圧する車間距離で走ってしまっている場合が多いのです。

また「事故さえ起こさなければ車間距離が近くても問題ない」という認識も誤りです。英国では物理的な接触事故に至らない「あおり運転」でも取り締まり対象になります。実際、ケント州警察は高速道路上で覆面パトカーに1マイル以上ピッタリと張り付いた車を発見し、青色灯を点灯して停車させ違反切符を交付するといった摘発事例を紹介しています。他にも、一般車やトラックによる異常接近走行を次々検挙した週末集中取締りを行った際のエピソードでは、「覆面警察車両のトランクの中身を確認したかったのか、しつこく後尾に貼り付いてきたドライバーがいた」という皮肉交じりの報告もありました。このように、事故が起きなくても異常な車間距離走行は充分に違反となり得ますし、警察も積極的に取り締まっているのです。

英国では多くの運転者が「あおり運転」を嫌い、また恐れています。National Highwaysの調査によれば、他車から車間を詰められると60%のドライバーが強い不安やストレスを感じると回答しており、自分自身が被害に遭った経験のある人も少なくありません。一方で、「実は自分も無意識に前車に近づきすぎてしまうことがある」と認めたドライバーも全体の43%にのぼりました。こうしたデータは、あおり運転が決して一部の特殊なドライバーだけの問題ではなく、誰もが加害者にも被害者にもなり得る身近な危険であることを示しています。あなたも「自分は大丈夫」と油断せず、常に安全な車間距離を保つことを心がけたいですね。

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先進技術:AI搭載カメラによる違反検知の試験導入

近年、英国ではテクノロジーを活用した新たな交通違反取締り手法も試験されています。その一つがAI(人工知能)搭載の高性能カメラによる違反自動検知システムです。2023年、イングランドの高速道路M4号線において試験的に設置されたカメラは、高精度の画像解析AIを用いて走行中のドライバーのシートベルト未着用や携帯電話の使用を自動検知しました。この6か月間の試験運用で、約7,000件のシートベルト違反25,000件以上の携帯電話使用という大量の違反を検出したと報告されています。これらは従来であれば見逃されがちな違反ですが、AIカメラの目によって短期間で可視化されたことになります。

さらに興味深いのは、これらAIカメラが将来的に「車間距離不保持(tailgating)の自動検知」にも活用できる可能性です。National Highwaysによれば、AIカメラには車間距離を計測して異常接近を検知する追加機能を組み込むことも技術的に可能であり、一部の試験では既にその検証も行われています。例えば、M1高速道路の一部区間における試験では、固定式カメラで1年間に60,343件もの「基準距離未満での追従走行(tailgating)」を自動記録できたとの結果が出ています。これは驚くべき数字ですが、それだけ多くのドライバーが日常的に前車へ近づきすぎている実態を示すと同時に、AI技術でそれを網羅的に検知し得ることを証明しています。

現時点でAI違反検知カメラは試験段階であり、検知した違反に対してただちに罰則を科す運用(自動取り締まり)には至っていません。実験中は検知されたドライバーに注意喚起の警告レターを送付し、安全運転を促す取り組みが中心でした。しかし「将来的にはAIカメラがあおり運転違反を自動で検挙できるようになる」可能性は十分にあります。National Highwaysも「この技術には将来的に他の交通違反や不適切運転の検知にも大きな可能性がある」と評価しており、警察と連携しつつ更なる試験と改良を進めています。近い将来、AIが後方から迫る危険な車を検知し、リアルタイムで警察に通報・ドライバーへ警告メッセージ送信……といったスマートな取り締まりが実現するかもしれません。

啓発キャンペーン:「Space Invader」など安全距離確保の呼びかけ

制度や技術による取り締まりと並行して、ドライバーの意識啓発キャンペーンも英国では盛んに行われています。その代表例が「スペース・インベーダー(Space Invader)」キャンペーンです。「Space Invaders(他人の空間を侵略する者)」とは1970年代の有名ゲームの名前ですが、高速道路で前車との車間スペースを侵略する「あおり運転」にかけた洒落で、このキャッチフレーズのもとHighways Englandが2018年に全国キャンペーンを展開しました。

このキャンペーンでは、「車間距離不保持は危険であること」「安全な距離(2秒ルール)を保とう」といったメッセージをテレビCMや道路掲示板、SNS等で発信し、ドライバーへの注意喚起が図られました。Highways Englandの発表によると、英国の高速道・主要道上で年間140人以上が異常接近運転に起因する事故で死亡または重傷を負っているとされ、また全交通事故の約8分の1(12%)で「車間距離不足」が何らかの要因となっているとの統計も示されました。これほど深刻な結果を招くにもかかわらず、多くのドライバーは車間距離を詰める行為に対して危機感が薄い傾向があります。キャンペーンでは、「他人があなたのすぐ背後にピッタリ立ってきたら不快に感じるでしょう? 実は道路でもそれと同じことが起きているのです」といった比喩で、車間距離不足の危険性をドライバーに気付かせる工夫がなされました。

その後もNational Highwaysは啓発を継続し、2025年には新たに「Too Close For Comfort? Stay Safe, Stay Back」(「近すぎませんか? 安全のため距離を置こう」)というキャンペーンを実施しています。この中では「車間距離を詰める行為は単にイライラさせるだけでなく、非常に危険です。他人の車を自分の延長の空間だと思い込まず、2秒以上の間隔を空けましょう」といったメッセージが発信されています。さらに先述の統計(43%のドライバーが自分も時折あおり運転をしてしまう)や、逆に「あおり運転されると6割が不安を感じる」といったデータも紹介され、「車間距離を取ることはお互いの命を守る思いやり」であるとの呼びかけがなされています。

このように英国では、取り締まりの強化だけでなく根本的な意識改革にも力を入れているのが特徴です。ドライバー自身に安全運転の大切さを再認識させ、危険な行為を未然に防ぐーー地道な啓発活動もまた、あおり運転ゼロを目指す上で重要な「対策」の一つと言えるでしょう。

まとめ

英国における「あおり運転」対策は、多方面からアプローチされています。市民による映像通報制度(Operation Snap)が浸透したことで、危険運転は警察官不在の場でも摘発可能となり、実際に多数の違反者が処分を受けています。悪質な事例には厳罰が科され、死亡事故では十年以上の実刑や長期免許停止といった社会的制裁が下されることも珍しくありません。法律上は独立の罪名が無いものの、「不注意運転」「危険運転」としてあおり行為をしっかり取り締まれる仕組みが確立されています。

さらに近年では、AI技術を活用した新手法が登場しつつあり、将来的にあおり運転の自動検知・抑止へ繋がる可能性を秘めています。また、行政による啓発キャンペーンもユニークかつ科学的なアプローチで展開され、ドライバーの意識改革を促しています。こうした総合的な取り組みにより、英国ではあおり運転への社会全体の目が厳しく向けられ、少しずつではありますが安全な運転マナーの浸透につながっていると言えるでしょう。

日本でも近年あおり運転への厳罰化が進みましたが、市民参加型の監視網最新技術の活用、そして継続的な啓発という点で、英国の事例から学べることは多いのではないでしょうか。ぜひ皆さんも英国の取り組みを参考に、安全運転への意識を高めてみてください。

FAQ(よくある質問)

Q1. イギリスでは「あおり運転」は違法ですか?

A. はい、違法です。ただし日本のように「あおり運転罪」という専用の法律があるわけではありません。英国では、他車に対する異常接近や威嚇走行は、「運転不注意(Careless driving)」や「危険運転(Dangerous driving)」といった既存の交通違反として処罰されます。程度の軽いものはその場で違反切符(罰金・減点)となり、悪質なケースでは逮捕・起訴され懲役刑が科されることもあります。例えば他車との距離を極端に詰めて走行する行為は法律上「適切な注意と配慮を欠いた運転」とみなされ、警察に記録・摘発されれば処罰の対象です。

Q2. Operation Snap(オペレーション・スナップ)とは何ですか?

A. 一般ドライバーが自身のドライブレコーダー映像を使って、危険運転をオンライン通報できる英国の制度です。Operation Snap用のウェブポータルから映像ファイルと必要事項を警察に送信すると、警察が内容を確認し違反の証拠として活用します。これにより警察官が現場で直接取り締まれない違反も、市民の協力で後日処分が可能になりました。実際、英国では毎日300件以上の違反映像通報があり、その約7割に何らかの警察アクションが取られています。些細な違反でも映像があれば見逃されない環境を整えることで、悪質運転の抑止効果も期待されています。

Q3. あおり運転で摘発されたら具体的にどんな罰を受けますか?

A. それは違反の悪質度や結果によります。例えば異常接近が軽微で事故も起きていない場合、罰金(約100ポンド=約1万8千円)と違反点数3点の付与に留まるケースもあります(いわゆる運転不注意違反)。一方、危険なあおり運転で重大事故の危険を生じさせた場合は「危険運転」として起訴され、1年以上の免許取消し最長2年の禁錮刑が科される可能性があります。さらに被害者を死亡させてしまった場合には最長14年の禁錮刑まで想定されます。加害結果に応じて処罰は非常に重くなりますので、「少し煽っただけ」と軽く考えるのは禁物です。

Q4. AIカメラはどのようにあおり運転を検知するのですか?導入時期は?

A. AI搭載カメラは道路脇から走行車両を撮影し、高速画像解析によって違反を識別する仕組みです。例えばカメラ映像から前後2台の車間距離と速度を測定し、「〇〇km/hで走行中に△mしか間隔がない=基準未満の接近」と判定するイメージです。既に英国の試験ではAIカメラが1年間で6万件以上の異常接近事例を記録できています。現時点では試験運用中で、本格導入時期は未定ですが、2024年に移動式のAI検知車両を投入するなど実証が進んでいます。早ければ数年以内に高速道路から順次実用化され、将来的には一般道にも広がる可能性があります。導入が進めば、あおり運転の自動検出・摘発が現実のものとなるでしょう。

根拠となる法令

  • 道路交通法1988年(Road Traffic Act 1988)第2条 – 危険運転(Dangerous driving)の罪。
  • 道路交通法1988年 第3条 – 不注意運転(Careless driving; Driving without due care and attention / without reasonable consideration)。
  • 道路交通法1988年 第1A条 – 危険運転致重傷(Causing serious injury by dangerous driving)。2012年法改正で追加。最大禁錮5年、最低2年の免許取消。
  • 道路交通法1988年 第1条 – 危険運転致死(Causing death by dangerous driving)。※2022年法改正により法定上限刑が終身刑に引き上げ。
  • 刑事裁判所訴追基準(CPS Charging Standards)- Careless/Dangerous Driving – あおり運転がどちらに該当するかは運転水準の程度による。


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